香取慎吾のクズっぷりはどうだったか―映画『凪待ち』を観る


映画『凪待ち』予告(30秒)

 

映画『凪待ち』を観てきた。おれがおそらくいま世界中で一番好きな監督であろう白石和彌作品である。

そして、香取慎吾の主演作品なのである。香取慎吾と映画……というと、あまり観ていないのになにか言うのもどうかと思うが、あまりイメージが。しかし、ジャニーズ事務所を辞め、新しい方へ行こうというところで、白石和彌作品でギャンブル依存症の徹底的なクズ人間を演じるというところで、なんかすごいハマり方をするんじゃないか、という期待もあった。

で、香取慎吾はどうだったか。おれは「浮いていた」という言葉が頭に浮かんだ。「なんだ、やっぱり向いてない役だったの? 演技が下手だったの?」といわれるかもしれない。が、ちょっとまってくれ、そういう意味の「浮いている」ではないのだ。作品世界の中に現れた、一人の異邦人のような存在として、独特の存在感を放っていたのだ。

なんというか、ほかの出演者はしっかりとそこにあるようにしてある、すばらしいハマり方をしていた。西田尚美恒松祐里の母子。西田の父であり、老いた漁師の吉澤健、地方のヤクザ、とくにノミ屋のカウンターのあんちゃん、年上の競輪友達、嫌な感じの警察官、リリー・フランキー……。そこにあって、香取慎吾はなにかよそ者なのである。いや、実際に川崎から石巻に引っ越すのだから、よそ者ではある。だが、香取慎吾はどこから来たのか。どこから来て西田尚美と付き合い、同棲することになったのか。それが語られない。

重度の競輪狂い。印刷工場で働いている。印刷に関するなんらかの資格を持っているらしい。ひょっとしたら、前科者で、刑務所で印刷技術を取得したのだろうか。あるいは、あの体格で、ロードバイクに乗っている。先に自転車があって、なにかに挫折して、競輪にハマってしまったのだろうか。……すべては想像にすぎない。

そして、本人の口からそれらが語られることもない。人付き合いは苦手なようだ。話すのが下手だ。ここで、役者としての香取慎吾のいい具合の浮きっぷりが出てくる。話し方が、なんというのか、子供っぽく聞こえるといったらなんだけれども、妙に軽く聞こえることがある。その不安定さが、見ていて「わかりやすくない」駄目人間っぷりを引き立てている。あるいは、そんなところで、彼を見捨てない人間がいる、ということになっているのだろうか。そんな気さえする。

というわけで、「そこまでいくとギャグではないのか」、「不条理劇なのか」というくらい香取慎吾は周りを不幸にしていくし、自らを不幸にしていく。ギャンブル依存症で不幸にしていく。誰の言葉だったか、「使ってはいけない金に手を付けてからが博打の本番」というやつである。金→競輪、という説明不要の行動は実にリアルで、おそろしい。

リアルといえば、石巻には場外車券売場がないらしい。どうやって車券を買うのか? そりゃネット投票だろう、というのではちょっと話が面白くない。ノミ屋でやる。おれはノミ屋には行ったことがないからわからないから、本当のノミ屋を知っている人から見たら「なんだこれ?」というものかもしれない。だが、本当のノミ屋を知らないおれからすると、「すげえリアル!」という感動ものなのである。手書きの車券、カーボン紙、がちゃんと押される通し番号かなにか。あの音は、癖になる。

博打の場面も最高だ。おれは競輪のお隣さんの競馬専門だが、走るものに賭ける高揚感、負けたときのやるせなさ、勝ったときの快感、わかるといっていい。自分の思い通りに馬がゴール板を駆け抜けたときの全能感……。ただ、おれは自分の人生を賭けるような博打をしたことがない。おれの尊敬する清水成駿も「若いうちに失ったら相当痛いと思える勝負をしろ」と言っていたような気がするが、そういう勝負をしたことがない。が、この映画で香取慎吾は勝負する。すばらしい博打映画! そこだけでも見てもらいたい。いや、映画全部見なければ、意味がない。

しかしなんだろうか、おれは本当のノミ屋などに行ったことがないのでわからないが、支払いで胴元がパンクするような勝負は受けないのではないか。あるいは、そういう場合、保険として本当の胴元(この場合JKA、ネット車券)で同額の車券を仕入れるはずだ。おそらくノミ屋の方が控除率を下げているから少しは損するだろうが、それで客を儲けさせて、引き続きカモにしたほうがいいのではないだろうか。

が、しかし、香取慎吾が「○○(競輪場名)の△レースまだ買える?」と聞いたとき、ノミ屋が「うちは■■(競輪用語のため不明)まで売ってるよ」と答えた、そんなシーンがあった。正式の締切より、ノミ屋の方が遅いのだ。となると、香取慎吾が大勝負しようとしたとき、すでに公式サイトは締切だったのかもしれない。

……って、どうでもいいことに字数を使ってしまいましたね、はい。

それで、なんの話だっけ。香取慎吾がいい感じに浮いている、という話だったっけ。そう、なんというか、不思議なやつなんだ。クズはクズなんだけど、まあどっかしらいいところもあるわけで、でも、どこがいいのかよくわからんというところもあって、それゆえに愛すべきクズとは言いかねるのだけれど、いや、ほんと、なんか不思議よ。しかしまあ、ガタイの良さは見ての通りというか、これが暴力を振るうとなると妙な迫力がある。「妙な」というのは、どこかしら香取慎吾の童顔というか、子供っぽさというものもあり、なおかつそれがかなり汚れの格好をしていて、なんか不釣り合いで不自然なんよ。で、おれはそれを含めて、「いや、これはちょっと面白いんじゃないか」って言ってるんだ。

それで、おれが言ってることがわからん、信用ならんなどというのであれば、映画館で確かめてみるべきだ。その価値はある。なんというのか、ノミ屋だけじゃなく、民家の中、とか、印刷工場、とか、製氷工場、とか、石巻あたりで若者が遊ぶ施設、とか、そいういうところもきっちりしていて、役者もみんなこなしている。見ていて飽きるところがない。本当だぜ。

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あ、見に行った証拠。どうせならと東スポの競馬欄の上に置いた。ついでに予想みたいなものを書いてみた。書いてみたら、買ってみたくなるのが人情というもの。おれですら名前を知っている平原康多に本命が打たれているので、頭に。山崎賢人との脚力勝負とある。あとはコメントで「平原さん」と言ってる五番と、「山崎くん」と言っている六番。三連単一着流し。レースは山崎賢人が先に仕掛けて「かかって」(実況で使われていた競輪用語。競馬では悪い意味なのにね)、突き放そうとする。そこを三番手から猛然と平原が追い込んでくるが、わずかに届かず。三着が五番だったので一着二着の裏目を食った。競輪はよくわからない。

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