おれはこの間、一人でアニメ作りをしているという人のことを知った。以下の記事である。
伊勢田勝行氏である。知る人ぞ知る、というか、三峯徹的に知られているというか、まあ、そういう存在なのだろうけど、おれはこの人のことをまーったく知らなかった。ニコニコ動画など、動画サイトをあまり利用しないで生きてきたということもあるが、なかなかに脳に染み込む映像である。
そして、思ったのである。「アニメも一人で作れるのか」と。
と、ここまで徹底して一人ではないにせよ、新海誠だってそういうところからスタートした。そして、おれは偶然この作品を観た。
『アラーニェの虫籠』、これである。おれは一応深夜アニメをよく観ている側の人間だし、アニメ映画にもそれなりに興味を持っている。が、この作品については劇場公開時もまったく知らなかったし、ずいぶん経ったあとにどこかで知ったのだと思う。
で、キャッチコピーに「たった一人で制作する、前代未聞の劇場用アニメ」とある。それよりも、タイトルよりも「花澤香菜」の名前が目立つし、「え、花澤香菜が一人でアニメを?」というわけでもないが、まあいい。ともかく、伊勢田氏より徹底していないとはいえ、現代のアニメ制作手法からすると「一人で」と言える代物なのだろう。おれは気になった。気になったので、観た。
が、最初に言ってしまうと、おれには合わなかった。一つは上のパッケージからもわかるような、虫というか蟲というか、そういうイメージ、そして、どんどん重ねられていくホラーの感じ、怖い感じ、これが苦手なのである。「えー、先輩、怖いの苦手なんすかー?」と言われると、ちょっと違う。怖いから苦手というより、怖がらせようとする、気持ち悪がらせようとする作品に対して、あまり感度がないのである。同じようなことは、泣かせようとする作品にもいえるが、まだ泣かせようとする方に反応するかもしれない。笑わせにくる作品、これは基本的に好きである。エロい、これも……まあいい。
むろん、世の中の創作物いうものには一つの作品にいろいろな要素が詰め込まれていて、グラデーションを描いているものだ。泣き笑い、などはおれも好きだし、割と好きな人も多いのではないか。
で、『アラーニェの虫籠』はどうにも「怖い」ほうに振り切っている感じなのであって、そこんところが合わなかった。こればっかりは趣味なのでしょうがない。で、そうとなると、どうも作品を観るのにもあまり関心が持てなくなり、どうやらなにか存在するらしい設定、物語の芯のようなもの(公式サイトに謎解き的なページがある)も、どうにもスルーしてしまって、終わってしまって、というところ。
そんでもって、「ここまで説明不足的に怖い方面の要素をたくさんぶちこんでくるのも、一人ならではなのかな」とは思った。趣味に振り切った感がある。アニメというのは基本的に共同作業でつくられるものだろうし、作家性の濃淡はあるだろうが、これは言うまでもなく「濃い」のだろうな、と。
というわけで、おれには合わなかった。けれど、この作者の好みがストライクな人にはすごく刺さるかもしれない。おれはこういったジャンルの良し悪しもわからないのでなんとも言えないが。ただ、しかし、視覚的効果か、あるいはもっと意味があるのかわからんが、手ブレの効果は別の意味で気持ち悪かった。クオリティについてはあまり気にならなくなったが、伊勢田作品を観ていても、しばらくすると慣れてしまうおれの言うことなので気にしないように。
以上。
【映画パンフレット】アラーニェの虫籠(正規品/シナリオ採録)
- 作者: ゼリコ・フィルム
- 出版社/メーカー: ゼリコ・フィルム
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