おれは呆けた顔でそれを眺めていた

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階段をのんべんだらりと下りながら、口には昔ながらの紙巻たばこくわえて、ちょっと立ち止まってターン、腕を開いて空を。

お前は社会の底辺を這いずって、なにも残さないって歌が聞こえてきた。ガラスの瞳、球体関節、美しい素材の肌。みにくいものとは縁なく生きたい。

人間の集団が嫌で嫌でたまらない。そいつらが同じことをしていると、なおさら嫌になる。一人に一個の魂ってものがあるだろう。共感なんてものはありはしない。

そうさ、お前はだまされている。なにかちょっと魂にバックドアがあって、うまいこと乗っ取られてんだ。それに気づかないでのんきなものさ。

動いてみせることだ。踊ってみせることだ。ぶら下がってるボールに飛びついてるべきだ。そして、ボールをぶら下げてる縄をたどって登っていって、そこにいるだれかさんの喉笛を掻っ切ってやれ。

お前には牙もあるし爪もある。命を取れとはいわないが、片目を潰すくらいのことはできるって、そういう確信が必要なんだって、おれは何度だって言ってきたって。

自転車のチェーンがはずれて惨めな気持ちになる。おれはバックパックから軍手を取り出して、プーリーを動かして、チェーンを付け直す。そうしないと自転車が走ってくれないからだ。

アパートにためてるアルコール飲みきったら酒をやめようと思っているのに、気づいたら補給されている。妖精は存在する。

倦怠に包まれたときの時間の経つこととの短さ、あるいは長さ。切り離されたような場所にいて、おれはただひたすらに極端に集められた重力を呪う。

ツイン・ヘッド、トリプル・ヘッドは当たり前になっておれのマシーンの馬力のなさを嘆く。嘆いたところで坂道の半ばにはずいぶんと差がついてしまって、おれは途中でやめてしまう。

ガジュマルの葉がすべて落ちてしまった。土をすべて入れかえたまた生えてきた。切った枝を適当な鉢にさしたら葉が出てきた。ここは沖縄ではない。

おれはなぜかブラウン管のテレビを見ていた。校庭のグラウンドをサラブレッドが走り回る。それが最後の日本ダービーだとおれにはわかっていた。

馬たちは走った。野の光となった。天高く駆け上がっていった。おれは呆けた顔でそれを眺めていた。ずっと眺めていた。