韓国映画『はちどり』をみる/コロナ以後初の映画館

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横浜シネマ・ジャック&ベティにて韓国映画『はちどり』鑑賞。コロナ流行移行初めて映画館へ行った。それについては後述する。

 

あの頃のUNITED COLORS OF BENETTON、『はちどり』

animoproduce.co.jp

主人公のウニは(雲丹ではないです)は中学二年生。女子校の(韓国では基本的に公立も中学から男女別学だったらしい)クラスではどこか独り浮いてしまっている。そのわりにボーイフレンドなどもいる。友達がいないわけではない。家は団地住まい。家業は餅屋。いかにもな威張り散らす父に、病みがちな母。立身出世の期待をかけられる優秀な兄に、みずからをできそこないとみなす姉。富裕層の家庭というわけでもないが、漢文塾などに通わせるなど貧しいわけでもない。中の中から、中の上くらいかもしれない。

して、そのウニちゃん(雲丹っぽさを避けるため「ちゃん」つけてみました)が背負ってる黄色いバッグに記された文字が「UNITED COLORS OF BENETTON」。ああ、おれも中学のころベネトンのバッグを大事に使ってたなあ、などと思う。思うと同時に、あれ、この映画の時代、1994年? とすると、suedeの1stが1993年くらいだから、このウニちゃん、おれと同世代。違ってもせいぜい一歳差。それに気づくと、おれはなんというか、いっそう映画のなかにのめり込むようになった。ベネトン、あのころのF1、というのは別の話になるので置いといて。

映画は、ほぼ全編、ウニちゃんが映っている。ウニちゃんが画面に入る前、出た後、そりゃ映ってない場面もあるが、ともかくウニちゃんの映画なのである。ウニちゃんの視点によってウニちゃんに関係する人物が描き出される。大きく言ってしまえば、時代も描き出される。没入感は高い。

家族、恋人、漢文塾の友人、そして、漢文塾に新しく赴任した女性教師。この女性教師の存在感が大きい。ソウル大学(東大みたいなものだろうか)を長く休学しているという。急に歌を歌いだすシーンがあるのだが、労働歌のようでもあり、韓国のそのあたりの事情には詳しくないが、学生運動などしていたのかもしれない。この先生に漢文を通して、たくさん人を知っているというけど、心の中まで知っている人はいる? と問われる。

映画「はちどり(벌새)」の豆知識 | 一松書院のブログ

こちらの記事(歌などについてもとても詳しい)によると、次のようなものらしい。

 ヨンジ先生が黒板に書いていたのは、『明心寶鑑』の「交友篇』の一節である。『明心寶鑑』は高麗の民部尙書・芸文館大提学秋適が、1305年に中国の古典などから金言名句を集めて編纂した書物である。

論語』かなにかかと思ったら、韓国の古典らしい。

交友篇 相識滿天下 知心能幾人

世界に相知る人は多くても、幾人の心を知っているだろうか、という感じだろうか。この問いかけに答えるようにウニが変わっていく……のかどうかわからない。成長の話といえばそうなのだろうが、やはりどうにもならぬ中学二年生という立場もある。それでも、人に裏切られ、人に思いを伝え、やっぱり成長していくんだな、ウニ。それがどうにもいいのだ。なにかこう、よい少女漫画を読んでいるようでもある。

と、「よい少女漫画」と書いたのは、おれに女子中学生の経験がなく、また、中学の男子校で男女の恋愛もなかったからだ。とはいえ、この映画には百合分が多分に含まれているといってもよく(少女ふたりがトランポリンするシーンの美しさよ)、そのあたり中学男子校のおれに思い当たらないこともなく。

韓国映画における女性への暴力問題(というほどたいそうなことは書けない) - 関内関外日記

そして、兄によるウニへの暴力(やっぱり「ちゃん」つけたほうがいいかな)。ウニの友人もまた同じような目に遭っている。ウニの母も夫から暴力を振るわれる。このあたりの男尊女卑社会も、作り手は描きたかったのだろうと思う。

とはいえ、病気にもなるウニちゃんが完全な弱者かというと、友達から「たまにあなたって自分勝手なところがある」という指摘に、なぜか見ている自分がズキッとするのだ。人間というのは一筋縄でいくものではない。その上に、自分ではどうしようもない運命というものにも左右される。このどうしようもなさと、それでもなお、というところが、描かれているんだよな。

結局、最後まで同級生たちに溶け込める感じには描かれなかったウニちゃん、はたして、今後どのような人生を歩むのだろうか。幸あれ、と思う。というか、前日譚ではないけれど、もっと小さいころの同一主人公の映画がある(ウニとか言わないで「主人公」って書いとけばよかったか)らしいし、成長した姿を描いた続編があってもいいと思ったのでした。おしまい。

 

コロナ後の映画館

シネマ・ジャック&ベティのメンバーズ会員になるのこと - 関内関外日記

おれはコロナ後、なんとなく映画館を避けていた。なんとなくというより、「感染しやすいのでは」という思い込みがあった。が、その後何ヶ月か経つが、映画館でクラスターが発生したという話は聞かない。密集してみんなが大声を出したりするライブハウスや、接待を伴う飲食店などはやばいが、みんなが一方向を向いて黙っている映画館はやばくないのでは、ということだ。

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で、ジャック&ベティに行った。ネット座席予約システムが導入されていた。その上で、さらに客席は半分にしているという。経営的に厳しいところがあるのかもしれないが、それでもけっこう人は来ているような感じもあり、いやいやそれでも満席でも半分だというのはあり……。ともかく、おれも「行って支援」というほどではないにせよ、気になる作品があったら行こうとは思うのだ。たぶん、満員電車に乗るよりは、新型コロナウイルスの心配は少ない。それよりも、映画館に歩いていく(歩きが最短距離)道中の暑さの方がいまのところはきついのだが。まあ、みんな、映画館行こうぜ。