ケコン島――それは選ばれし者グリーンボーンたちの島。彼らは、島の貴重な天然資源である翡翠のエネルギーを制御することによって、怪力、敏捷、感知など、人知を超えた能力を手に入れることができた。島の中心地であるジャンルーンを仕切るコール家を中心とした〈無峰会〉は、若き〈柱〉である長男のラン、ランを支える〈角〉の次男ヒロを中心に強く結束し、宿敵〈山岳会〉を相手取って、縄張り争いに明け暮れていた。だが、僅かなほころびをきっかけに事態は混沌の様相を呈する――。"翡翠の街”を舞台に展開するSFアジアン・ノワール。ケン・リュウも激賞した、世界幻想文学大賞受賞作!
- おれには一つの権威主義というか、価値判断のアウトソーシングという姿勢を持っていて、ヒューゴー賞やネビュラ賞、あるいは世界幻想文学大賞など受賞していれば、いくらかは面白いはずだと思って読む。
- ケン・リュウ曰く「21世紀版ゴッドファーザー×魔術」らしい。おれは『ゴッドファーザー』シリーズをろくに見ていない。著者のあとがきによるとギャング物やカンフー映画のファンらしい。父親が東洋系らしく、その影響があったらしい。
- 著者フォンダ・リーは空手とカンフーの有段者らしい。
- 『翡翠城市』におけるアジアとはどこだろう。明確なモデルはない。おれはおれの中で、「台湾+フィリピン+インドネシア」あたりを想定しながら読んだ。台湾といっても『セデック・バレ』のそれである。
- (編集部)による解説では「香港を想起させるような」とあったが、おれはまったく香港を思い浮かべなかった。
- おれは日本から出たことは一度たりともない。
- グリーンボーンによる翡翠の能力は、いくつかの肉体強化と超能力のようなものであって、それぞれが固有の技を持っているという感じではない。幽波紋ではなく波紋法というか。固有特殊能力バトル物、ではない。
- 日本のヤクザのドキュメンタリーも参考にしたというが、日本らしさもあまり感じられなかった。日本人だから感じられないんだよ、という話もあるかもしれない。
- ルーツはともかくとして、カナダのカルガリー生まれらしい著者。やはりどうしても西洋の目によって東洋を描いているな、という印象は残る。そういうおれはやはり西洋よりの目を持ってしまっていると思う。
- けっこう長い。「こんなに長いのであれば、世代別に二冊か三冊にすればよかったのに」と思った。翡翠城市サーガだ。が、読んでいる途中で、「残りの分量からすると、これは終わらん、まさか、これがサーガの幕開けか?」と思う。そのとおりで、もう向こうでは続編が出ているらしい。重厚なものをぶっこんでくるな。
- おれは貧乏人なので翡翠といわれてもピンとこないので画像検索などした。ただ、ジェイドロバリーやジェイドハンターについてはいくらか知っている。
- SF、あるいはファンタジー。自動車、ある。テレビ、ある。ビール、ある。電話、ある。携帯電話、たしかなかった。飛行機、ある。国際空港、ある。銃器、ある。バイク、ある。パソコン、たぶんない。インターネット、ない。タイプライター、ある。……ある意味、ファイナルファンタジーシリーズ的かもしれない。
- 任侠というより武侠。
- <柱>はPillar、<角>はHorn、<日和見>はWeather Manらしい。
- 正直、ちょっと途中で読むのやめようかな、とも思った。思ったが、放るにも惜しいような気がして最後まで読んだ。
- 最後の戦いの盛り上がりは、これはもう絶品と言ってよく、手に汗握りながら睡眠時間を奪った。そういうノリ、わきまえてるよな、というところが急に出てきた。
- ノワールと言われると、黒さが足りないような気もする。薄墨というか。『ブラック・ラグーン』のほうが濃いかもしれない。『ブラック・ラグーン』も架空アジアか。
- なんというか、癖のあるキャラは出てこなかった。うまくいえないが、なにかジョーカー的なやつというか、得体のしれないやつというか。皆、型にはまってる感じはある。とはいえ、そういう型に特殊な設定を流し込んだんだろうというと、そうなのかもしれない。
- 作中の登場人物が口にする敬称の設定などはいい感じだった。
- 著者は香港でも台湾でも日本でも中国でもないと述べているらしいし、おれはもう少し東南アジアを思い浮かべた。逆にそのせいで像を結ぶのが難しかったところはある。登場人物の着ている服は? 肌の色は? それはおもしろくもあり、想像力を失いつつあるおっさんにはひっかかるところでもあった。
- 続編を読むか? と問われたら、絶対に読むだろう。たぶん。たぶん、絶対に、ってあるのか?