比較的名前の短い鳥たち

比較的名前の短い鳥たち

雨はやまない

自分の名前を忘れてもだえている人がいる

傘の下に顔はない

シマトネリコの小さな花が散る

散った花は雨に打たれて赤みを帯びる

さいころはダンサーになりたかった

踊り子の名前をつけられた馬たち

何度も開かれる本もある

目がちかちかしてきてもう読めない

まだ見つかっていない部族

部分的に失われる言語能力

悪いことをしてもお金を稼ぐ

春からは生まれ変わるもの

小さな虫を殺してしまう

心のなかで念仏をとなえる

願いも後悔も空に消えて戻らない

歌い手の赤いドレスのかげの部分

夜空の星は三つしか名前を知らない

宇宙が生まれたときの光は今どこを進む

バスの乗り方がよくわからない

身長はいつまでも伸びない

心はいつまでも広がるのか

森にひそんでいる水のような気配

のどを灼く透明の飲み物

だれよりもゆっくり歩いて家に帰る

こんなに美しい手の少年がいるのかと思う

よく見れば少女か人形であった

かぎりなく白い瞳孔の男

草原を駆ける馬の脚音

都市にある多くの窓から振られる手

明日月に向かって旅立つ人

一本の樹にそんなにたくさんの鳥がいた

明け方になるとみなばらばらになる

失った片足を探して砂浜を歩く

砂を掘っても出てこないピストル

六発の弾丸のそれぞれの標的

腰をいためた老人のその鈍色の杖

かつてはなにかで名のしれたやつだった

二人乗りの自転車が坂道を登る

いつもとは違う方へ交差点をまがる

脳の奥にあるものを追い求める

人生には飛躍が必要だという

動きたくないひとりの心

暴虐を尽くした皇帝の第一の下僕

眼鏡のつるがあらぬ方向に曲がる悪夢

人形つかいも人形ももういない

観客は始まらない舞台を待つ

人を笑わせることはもう嫌になった

とくに特徴のない哺乳類を見た

与えられた名前がぞんざいだった

だるい身体は今朝も起き上がる

あの夜空に消えた拍手と喝采

思い出がきれいなままの日記帳

昨日から来年のことを考えている

新築の家から聞こえるどなりごえ

留め具の錆びた傘をひらいて

今飛び立った比較的名前の短い鳥たち