『GENKYO 横尾忠則』(東京都現代美術館)へ行く

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GENKYO 横尾忠則 | 展覧会 | 東京都現代美術館|MUSEUM OF CONTEMPORARY ART TOKYO

 

東京都現代美術館横尾忠則展を見に行った。今年の7/17から開催されていたが、女と「場所が東京だし、ワクチン打ち終わった秋に行きましょう」ということにしていた。お互いワクチンも打ち終わり、緊急事態宣言も解除されたので、行った。

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いきなり横尾忠則とは関係ない話をするが、10月なのにアホみたいに暑かった。おれは前日の横浜の予想を見て、「ま、10月だしな」と思って長袖シャツに薄いジャケットででかけたが、大間違いだった。みんな半袖だった。東京は30度を超えていた。アホなのか、天気。

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というわけで東京都現代美術館横尾忠則展というと、おれと女がはじめて一緒に出かけたという思い出がある。この日記を書きはじめる前のことだ。あれはどこだったろうか。とにかく膨大な量に圧倒されて、クタクタに疲れたことを覚えている。

横尾忠則 森羅万象 | 展覧会 | 東京都現代美術館|MUSEUM OF CONTEMPORARY ART TOKYO

……って、同じ東京都現代美術館だったか。なんか別の美術館だったような気もするが、検索すると出てくるカタログに見覚えがあるのでたぶんそうなのだろう。

昔話はいい。

現況だ。

というわけで、「原郷から幻境へ、そして現況は?」なのである。

入ってすぐの展示室「神話の森へ」は、いわゆる「画家宣言以降」の作品が並んでいたので、その後もそれ以降から現況までなのだろうと思う。続く「多言宇宙論」の展示室も油彩、そしてテクナメーションが続く。《放たれた霊感》だと思うが、銃をぶっ放してるやつがよかった。「だと思う」というのは、出品作品リストがなく、QRコードでアクセスして見られる形式だったからだ。メモができない。《水+火=血》はタイトルの発想が面白いと思った。テクナメーションはどれも目をひくが、《マントラの滝》がよかったか。

つづいて、「リメイク/リモデル」の展示室で……。うわあ、リストが印刷物でない理由がわかった。すげえ数だ。オートバイのやつとか、スイマーのやつとか、これでもかと繰り返されるモチーフの嵐。しかし、どこかしら違いがあるというか、サービス精神があるというか、細部がおもしろいんだよな。あとは、アンリ・ルソー作品とかをパロディ(というか、リメイクなのか?)した作品群とかな。もう、なにがなんだか。

と、思っていたら「越境するグラフィック」で、グラフィックデザイナー時代のポスターが出てきたぞ。ご存知の名作揃いだ。でも、見たことあるぜ。見たことあるけどまた見るぜ。ポスターの中の澁澤龍彦の文章読んだりするぜ(そんなところで体力を使うな)。

で、「地球の中心への旅」。ちょっと疲れてきている。《わが青春に悔いなし》の蝶の色が印象に残っている。そして、おれが以前、「自分の好きな絵画ベスト3」の一つに挙げた《ナポレオン、シャンバラ越え之図》。おお、あった! でも、こんなにでかい絵だったっけ? などと思う。図録などで見たせいだろうか。というか、横尾忠則、でけえ絵が多いな! でも、近くで細部を見たあと、ふと、反対方向から振り返って全体像を見ると、また違った、なんかまとまりのある印象があるんだよな。《三島由紀夫の最後の小説「豊穣の海」の三巻「暁の寺」を訪ねてバンコックへ行った。この頃東京は雪だった。黄金の光のバンコックにいながら、もうひとりの僕は東京にいた。そんなバイロケーションの感覚を描いた。》(作品名)、あとでこれのもととなったと思われる写真も見た。

死者の書」ゾーン。《二つの叫び》とか好きかな。《骨》は下書きを後で見たのだが、中原中也の詩が書かれていた。同じモチーフの連続では《Back of Head》シリーズは初めて知った。

続いて「Y字路にて」。これ、前回の展覧会でたぶん当時最新のモチーフだったかな。でも、その後に描かれた作品もあって、どんどん幻境に近くなっていくような感じもあっておもしろい。《アストラルタウン》くらいになると、また一つ違う感じがある。《黒いY字路》が黒いのは2011年に描かれたからだろうか。

「タマへのレクイエム」は、愛猫であるタマを描いた作品。おれも猫を飼っていたので、すごくいいなと思う一方で、悲しくもなる。グッズショップで文章付き画集も売られていたが、ちょっと読んで泣きそうになったので買えなかった。猫を愛する人には刺さると思う。

「タマ」のコーナーを抜けると、ぽつんと《二刀流》。これはなんか単独で置かれて、しかも回転していた。2018年の作品。回転しているのは大谷翔平で、投げる姿と打つ姿が交互に現れる。ホームベースには横尾忠則おなじみの宮本武蔵。なるほど、二刀流。

「横尾によって裸にされた、デュシャン、さえも」のコーナーはデュシャンのコーナーだったろうか。記憶が怪しくなってくる。たしかこのコーナーの絵で、人物の一人のタッチが、あれだったので、「これ、あの画家ですよね?」とおれ、女は「そう、あの……名前が出ない」などと脳が疲れてきている。フランシス・ベーコンじゃないかなあ。このあたり、けっこう最近(2015年くらい)の作品も多い。

で、続くは「終わりなき冒険」。終わりのない展覧会だな! いや、物足りないよりはいいけど! これはあれだ、なんか冒険小説とかをモチーフにしたような、そういうやつだったと思う。子供たちが、なにかを覗き見しているような、そういう構図がおもしろい。

「西脇再訪」は故郷をモチーフとした作品群。手漉き和紙を使った作品などもある。役所の職員が遅刻したため展覧会が……という自分の新聞記事の切り貼りなどもあって笑える。

で、メーンの最後は「原郷の森」。細部に見どころの多い今までの作品とガラッと雰囲気が変わり、ダイナミックで抜けがいい。これこそが「現況」なのだ。主なモチーフは寒山拾得で、箒は掃除機になり、なぜかトイレットペーパーが舞っている。そして、ところどころに首吊の縄。このあたりの最新の絵のあり方については、下の記事なども。

横尾忠則にインタビュー! “85年”の画業を振り返る『GENKYO』の圧倒的空間。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

「コロナ禍に嫌々描いた絵が最高」レジェンド・横尾忠則の「現況」 | FRIDAYデジタル

これらの記事、写真もあってボリューム感なんかもわかりますかね。「寒山拾得」がなんなのかは、検索でもしてください(投げやり)。

で、現況の幻境の原郷まで来て終わり。

……と思ったら、帰る途中に「アーカイヴ」という小部屋。横尾忠則少年の有名な武蔵と小次郎の模写(1941年頃!)の実物や、高校時代の学園祭のポスター(高校生とは思えない)などがある。驚いたのは『週刊少年マガジン』の表紙で、そんな仕事していたのも知らず、それでも本当にマガジンで、しかも完全に横尾忠則カラーであって、『ガロ』ならともかく『週刊少年マガジン』でこれかよ、すげえな1970年代とか思った。これには参った。で、これを見て女が「横尾忠則がブックデザインをした半村良の単行本を揃えていたが、親に勝手に捨てられた。本文が黄色くて読めないようなすごいものだった。今なら価値があったかもしれない」などと言い出した。たしかにもったいない。

で、おしまい。

思い出すのも疲れた。でも、けっこう長いこと行ってなかった美術館、このくらいパンチがあるものじゃないとな。うん、いや、まあ。ともかく、横尾忠則ぜんぜん知らん人も、これ一回行けばなんというか、だいたい網羅している感じなので、お得です。いや、美術が損得で語れるか知らんが。

あ、あとはショップのお土産物か。過去の名作ポスターモチーフとかが多く、最新作グッズはなかったかな。いや、最新すぎて間に合わなかったのかもしれない。ちょっといいぐい呑みがあったけど、5個セットで1万2千円。バラ売りしてくれよ。あと、ここに来て、本当の最新作というか、一連のマスクコラージュがバーっとあって、とどめを刺される。

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(撮影可ゾーン)

で、買ったのは最初の写真に写ってるおみくじ。横尾忠則金言が書いてあるという。おれが引いたのにはこうあった。

自分自身から

自由を奪ってはいけない。

小吉だったけれど、いい言葉だ。座右の銘にしようかな。運勢は「自然の成り行きに任せ受け身でいく事です/欲を出さず本分を守っていれば順調です/無欲で勝負して成功する時です/結果を気にせずひたすら努力すれば安泰です」だってさ。最後の一文を除いたらおおいに受け入れたい。成り行き任せの受け身は望むところ。

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その後、美術館のカフェでパンとコーヒー。女の家で、くるりの「京都音楽博覧会」をオンライン視聴(というかオンラインオンリーなのだけれど)。最新アルバム全部と、渋い選曲。出身の立命館大学で演っていたせいか、最初期の歌が多かった。ワインやビールを飲みながら楽しんだ。そのあと、You Tubeで最近聴いている音楽など聴かせあい、女が女の母に買うテレビについて検討するなどしていたら(テレビ、なんか安くなったな。録画用に使える外付けHDDも)、終電近くになった。小走りで駅に向かったら、また汗をかいた。10月の夜なのに、アホみたいに暑かった。帰って、すぐにシャワーを浴びた。眠れないので、これを書いている。しかし、もう寝る。

……寝られるのか? 横尾忠則にパワーを奪われたような気になっていたが、逆にパワーを充填されたようでもある。単に躁転しているだけかもしれないが。

 

追記:「滝のインスタレーション」というのがあった。横尾忠則がコレクションしている滝の絵葉書だ。これがもうドバーッとあって、ドバーッと持っているのは前も見たような気がするが、今回は鏡も利用していてもうすごいことになっていた。よく見ると切手がはられているものがあったり、逆さになっているもの(字が書いてあった)ものがあったりした。一枚、なぜかふんどし姿の男達が滝の前で太鼓を叩いているやつを見つけ、「あ、これはカスハガだ」などと思った。どうでもいいですね。