マスク着用違反問題、永瀬王座は悪くない。連盟が悪い。

おれは昨日、将棋についての記事を二つ出した。

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そしたら今朝、将棋のことが話題になっていた。竜王戦でなにかが起こったのか? 否、順位戦でのことである。

 

佐藤天彦九段、マスク不着用で反則負け 将棋名人戦・A級順位戦 | 毎日新聞

 東京・千駄ケ谷将棋会館で28日に指された第81期名人戦A級順位戦で、佐藤天彦九段(34)が一定時間マスクを付けずに対局し、反則負けになった。マスクの着用違反で棋士が反則負けになるのは初めて。

 

終盤を迎えた午後11時ごろ、佐藤九段は112手目を指した後にマスクを片耳に掛けて考え始め、マスクを外して対局を続けた。30分ほどたったところで、対局相手の永瀬拓矢王座(30)が「反則負けではないか」と指摘。会館内に立会人がいなかったため、連絡を受けた同連盟の鈴木大介常務理事が急きょ駆け付け、佐藤康光会長らと協議した結果、反則負けが決まった。

 

なんとまあ。しかしなんだろうか、これは反則負けも仕方ない。なぜならば臨時とはいえ「対局規定」で反則負けについて記されているからである。二歩を打つのと変わらないといっていい。ルールブックにある以上は、そのルールに則ってやるのがゲームというものだ。

 

もちろん、それが世間一般に適用されるものではない。そこを同一視してはいけない。自宅で将棋盤を並べて、ふと香車を後ろに動かしてみても、警察に捕まることはない。サッカー部員がボールを片付けるのに手を使っていても、だれかに反則金を払うこともない。

 

もちろん、そのゲームのルールが社会の法律に反しているものであれば、それが正当化されることはない。だが、今回のことはあくまでゲームの中でのことである。

 

なので、永瀬王座が運営に指摘したのは当然のことである。指摘した相手が鈴木大介八段で、永瀬王座の師匠筋ではないかという声もあるが、相手がだれであろうが指摘するのが永瀬王座ではないのか。あるいは、鈴木大介八段にしても弟子だからあえて有利な裁定はしにくいだろう。

 

……と、なぜか「やっぱり永瀬か」というような声が聞こえてきてしまうのも事実である。永瀬王座自身も「なんで自分ばっかりこういうことになるのか」と思ったかもしれない。思っていないかもしれない。

 

おれは先の記事にこんなことを書いた。

永瀬拓矢といえば、千日手(同じ局面があれして、対局がリセットされて最初から指し直しになるルール)をいとわず、とにかく「負けない将棋」、「終わりのない将棋」を理想とする棋士である。

タイトル戦でも和服を着用せずスーツでのぞみ、栄養ゼリーやバナナなど大量のカロリーを摂取する。

何時間でも指してやるという棋風で、将棋に対するストイックな姿勢から「軍曹」と呼ばれるような棋士である。

 

おれは、藤井聡太から将棋をみはじめて、いろいろなタイトル戦を観るようになって、永瀬拓矢いいなあとなった。

実のところ、永瀬拓矢はアンチが多い。その泥臭さ、スーツ着用、千日手入玉をいとわない態度を嫌う人が多いのだ。

おれもその批判はわかる。わかるが、おれはそこが好きだ。プロ棋士ってのは、そこまで勝利に執着せにゃならんのだという思いである。先の王座戦においても、豊島将之九段(ファイター豊島ではない)の細くも強く繋いでいく攻め筋を、圧力で受け潰したあたりが、おれにはおもしろくてたまらなかった。

居飛車穴熊に対して、ためらわず入玉目指して勝つ。そのあたりの辛さ(からさ)がたまらん。

 

もとより、その辛さにアンチがいる棋士ではあるのだ。しかしなんだろうか、やっぱり目の前でマスク外されたら動揺もするだろう。盤外戦術というにはあまりにも反則である。かといって、対局者が直接声をかけていいものだろうか。記録係などが指摘するべきではないのか。……などということに頭を使ってしまうのも、永瀬王座の思考をかき乱すことになる。おれは佐藤天彦九段がわざとそれを狙ったとは絶対に言わないが、結果としてそうなってしまっている。そのまま対局が続くのでは、あまりにも永瀬王座に不利といっていい。

 

問題は、日本将棋連盟が定めた規定にあると思う。おそらく、元は「普段からマスクしない派」への対処として定めた。

マスクをしなければ負け…将棋新ルールに反マスク派棋士の言い分「強制されるのは心外」 | 文春オンライン

「一部に“反マスク派”の棋士がいるのです。彼らの中には対局中はもとより、将棋連盟内を移動中にもマスクをしない人もいる。苦々しく思った複数の棋士女流棋士が、理事会にクレームを入れたのです」

 

これが本当かどうかはわからない。わからないが、盤上に集中するあまり、「うっかりマスクを外したままにしてしまった状況」を想定していないように思える。あくまで自発的に、意図的にマスクしないよ、という棋士への対策が「規定」になっていないか。そして、運用についても具体的ではない。これでは永瀬王座も困ったはずだ。対局者が困るようなことがあってはいけない。

 

佐藤天彦九段は不注意だったとはいえ、頭脳のすべてを将棋に集中させる状態である。そういう意味でマスクのうっかりがあってもおかしくはない。それに「以前は、マスク着用の注意を受けていたケースもあった」というではないか。それでは公平を欠く。

 

なので、連盟に対して不服の提訴、大いにやるべきである。今回の件でなにか悪いところがあるとすれば、連盟の規定の書き方である。マスク着用義務自体についての話になるかわからないが、少なくともなんらかの改正は必要に思える。

 

というか、今まさに、竜王戦広瀬章人挑戦者の評価値上のリードが藤井聡太竜王にひっくり返った。ファンもマスクの話より盤上の話を聞いていたい。というわけで、それじゃ。