ハッピー・ハロウィン

わたしは渋谷のハロウィンだけを夢見て生きてきた。北関東の、なんにもない街。。たいくつな日々。夢は東京だけ。いつか、東京へ、渋谷のハロウィンへ……。

ようやく渋谷のハロウィンに行ける歳になった。わたしはめいっぱい仮装をした。常磐線ではちょっと浮いていたけれど、都内に入れば、きっと。

でも、都内に入っても、わたしみたいな格好をしている人はいなかった。つまらない格好をした勤め人ばかり。若者たちもだらっとした服を着てスマホを見るばかり。どういうこと?

渋谷の駅でおりた。あの出口へ掛けていく。でも、きっと、その先には……。

 

その先にあったのひどい光景だった。魔女の格好をした人、ゾンビの格好をした人、スパイダーマンの格好をした人、金総書記の格好をした人、みんなが道に倒れていた。地面には血溜まりができていた。

北関東には、こんな情報伝わってなかった。渋谷は三百六十五日ハロウィンで、テキーラの噴水があるって、みんな言っていた。街を歩く人はみんなアルコールやドラッグで頭をやられていて、素面の人間なんてバーガーキングの店員くらいのはずだ。それがどうだろう。人々が道に倒れた人の仮装を踏み潰しながら、平然と歩いている。

こんなはずじゃなかった。私は近くコンビニでテキーラの小瓶を買うと、一口で飲み干した。そこへ、古臭い軍服を着たおっさんたちがやってきた。

「おい、小娘。どこの田舎から来たかしらないが、ここはもうそういう場所じゃない。酔いがさめるまで身柄は預かる。おとなしくしていればそのまま帰してやる。ちょっと一緒に来てもらうか」

なんて高圧的な、いやな、むかつく、やつ。わたしは伸ばしてきた手を払った。

「おまえだってしょせんは田舎の百姓のせがれだろうに。この百姓二等兵! わたしの夢は、邪魔させないんだから!」

「なんだこのガキ、刺殺やむなし! 構えー!」

数人の兵隊が銃剣を構えた。

「トリック!」

と、その瞬間わたしは言った。

そらからかぼちゃが降ってきた。たくさんのおおきなかぼちゃ。かぼちゃは容赦なく人々のあたまに降り注いだ。人の頭にかぼちゃが直撃すると、かぼちゃは粉々になった。人間の頭もぐちゃぐちゃになった。かぼちゃは道路標識を捻じ曲げ、マンホールの蓋を貫通した。眼の前の兵隊たち、逃げるまもなく地面で潰れた。

わたしはとてもゆかいなきもちになった。たのしい、たのしい、たのしい。ハッピー・ハロウィーン。わたしは二本目のテキーラを飲み始めた。夜はまだはじまったばかりだ。終わらないダンスを踊んだ。世界は楽しかったんだ。粉々になったウィンドウがそこかしこで輝いていた。

かぼちゃの雨はそのあと二十三年三ヶ月降り止むことはなく、日本人の人口の八十四パーセントが失われた。なぜかテキーラの輸入量だけは減らず、日本とメキシコは同盟国となってアメリカのリングを日墨のマスクマンたちが席巻した。