おれがM-1グランプリの打ち上げ配信をストロングゼロを飲みながら見ていると、激しくドアをノックする音が聞こえた。いま、ちょうど真空ジェシカの川北にポスターがめくれてきておもしろかったところなのに、なんだ?
おれはアパートのドアを開いた。赤い服を着た、いかにもサンタクロースらしい男が立っていた。
「サンタだが」
「見ればわかる」
「サンタだが、どうすればいい?」
「サンタがどうしたらいいのかわからんことはないでしょう」
「そんなことだれも教えてくれなかった。大人はなにも教えてくれない」
「じゃああんたはサンタじゃない。ただの赤い服のおっさん。じゃ、いま忙しいんで」
「ちょっと待ってくれたまえ、今夜はクリスマス・イブだろう?」
「なんだあんたサンタがなんかわかってんじゃないのか」
「どうすればいい?」
「プレゼントだよ、プレゼント、おれにプレゼントをよこせ」
「わかった、そうしよう」
「ほら、いい子にはグレンリベットだよ」
「正月に飲む酒をどうしようか考えていたところだ。ありがたい」
「これでいいのか?」
「もう一声」
「ほら、ナッツとピーナッツバターだよ」
「ナッツはつまみにもなるし、ピーナッツバターはベースブレッドに使える。ありがたい」
「もう、これでいいかね?」
「こんな真夜中に人の楽しみを邪魔したんだ。もう少しくれ」
「えらい欲しがりさんのところに来てしまった」
「ほら、プロテインと1億超え【WIN5】2本的中、3億稼ぐも追徴課税で1億2000万円払った男・真田理。「馬券億り人」の異名で知られるプロ馬券師・真田の、「ここ一番の勝負の呼吸」を初めて具体的に活字化。真田が自身の勝負条件として定めている「適性に合ったコース」「適性に合った枠順」「展開利が見込める」「期待値が高い」「上位人気馬に死角がある」「鞍上強化」「過去に実力馬と遜色のないレースをしている」「近走の敗因の解消が期待できる」……など14か条を初披露。豊富な実践例を挙げての「勝負馬と勝負レースの選択」、そして「賭け方(投資法)」まで徹底コーチングする。併せて「カネになるジョッキー評価(川田、戸崎、松山、ルメール、武豊などリーディング上騎手プラスアルファ)」「カネになる真田印推奨馬(芝…オープン39頭、3勝クラス13頭、2勝クラス10頭/ダート・オープン19頭、3勝クラス12頭、2勝クラス10頭)」など、まさに勝負の手の内をすべて晒す!これだから大金が張れる――2023年大儲けをするためのノウハウが詰まった一冊だよ」
「プロテインは筋肉になるし。もう2023年もホープフルステークスしか残っていないけど、2024年も大儲けできるだろう。ありがたい」
「しかし、馬券予想者のいうことなんて信用できるのかね?」
「それがね、『競馬の天才!』誌で有馬記念で真田はタイトルホルダーとドウデュースを高評価していたんだよ。かれの見解は参考になる。なにより条件戦も個々の馬をよく見ているから、どちらかというとレースごとの予想のほうが役に立つかもしれんがね」
「血統派はやめるのか?」
「まあ、おれは血統は好きだけど、ガチガチの血統派というわけじゃないさ。最近の傾向から『今日はアジアエクスプレスとディスクリートキャットが連続して連対している。このレースでストームバード系いないか?』とか探すくらいだ」
「ふむ、ならいいだろう。しかし、正月は酒浸りか?」
「……そうだな、おれのルールは休日前日は飲む、だ。それ以外はノンアルコールか低アルコール一本と決めている。しかし、年末年始はどうしたものか……」
「というかおまえ、いま、ストロングゼロを飲んでいたろう? 明日は月曜日じゃないのか?」
「M-1と大反省会と打ち上げの日は特別だろう。特別な日はいいんだよ」
「一月は正月で」
「酒が飲める」
「私はサンタとして酒はあまり勧めないのだが」
「サンタのなんたるかもわかっていないのに、なにを言うんだ。世界にサンタは無数にいて、無数の欲望を映すんだ。欲望とは〈他者〉の欲望だ。わかるか?」
「サンタはラカンを解さない」
「おれもわからんから、安心して帰れ」
おれは安心して帰るサンタを見送った。街にはイルミネーション。眠りこけて終着駅にたどり着く泥酔者。今年おれは「明石家サンタ」を見ない。
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