付箋だらけの本を図書館に返却しようとした女について

この間、付箋だらけの本を図書館に返却しようとした女を見た。カウンターの人に、「付箋はとってください」というようなことを言われるやいなや、「すみません!」といって本を引っ込めて奥の方に行ってしまった。付箋を剥がしに行ったのだろう。

おれはそれを見て悲しい気持ちになった。ひょっとしたら、どこかの世界でその本は彼女の私有物で、付箋を貼ろうが、傍線を引こうが思うがままだったかもしれない。しかし、この世界では違う。その本は図書館の所有物で、彼女の付箋を貼ったまま返却することは許されない。

かく言うおれも図書館に本を返しに行く前、儀式のように付箋を剥がす。ある部分はブログに書き写し、ある部分は読み返すに留める。「いいな」と思った部分をおれのものにして、収納スペース(おれの部屋に本棚というものはない)に突っ込んでおくわけにはいかない。おれは少し悲しい気持ちになる。彼女もきっと悲しい気持ちになったにちがいない。おれはそう思う。そして、あらゆる本が思いのままに手に入る世界のことを夢見て寝てしまう。