電車からの追放

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山手から京浜東北線に乗る。車内はポツポツと立つ人がいるくらいの混み具合。おれはドアにもたれかかって立つ。

石川町でいくらか人が降りる。席がいくらか空く。2シート向こうのドアから、片足を引きずった中年女性か老人か、というくらいの歳の人が入ってくる。空いた席に座ろうとする。が、素振りを見せただけでやめて、こちらに近づいてきて、別の席に座る。すぐにでも座りたそうだったのに何故だろう? おれは彼女が通り過ぎた席を見る。

その空席の隣にはホームレス? かもしれない男が座っていた。ぼさぼさの髪に髭面。上はジャージ、下はハーフパンツ。太い脚が見えている。前かがみになって起きているのか寝ているのかわからない。足もとには何かが入った紙袋が4つくらい置かれている。

電車が関内に入る。制服を来たJRの職員が二人入ってくる。移動だろうか。こういうときは絶対に座らないよな、と思っていると、先ほどのホームレス? かもしれない男の前に立った。職員が何ごとか話しかける。男は足もとの紙袋を少し探るような素振りをしたが、すぐにやめてしまう。職員に促されるようにして立ち上がる。立ち上がってみてはじめてわかった。男の片足は象の足のように肥大化していて、靴のかわりにスーパーのビニール袋で包んでいた。男は電車を降りるとホームのベンチに腰掛けた。職員は男に付き添うでも、連れて行くでもなく、どこかに消えていた。電車は走り始めた。おれの目はホームの男を追っていたが、すぐに見えなくなる。

おれには事態がよくわからなかった。男がすんなりと座席を立ち電車を降りたのは、電車に乗る権利がなかったのだろうとは思う。要するに無賃乗車だ。とはいえ、いったいどのタイミングでJR職員はそれを把握し、関内で退去を命じたのだろうか。今どき車内改札なんてしないし、そもそもあの職員二人は迷いなくあの男に向かっていった。

そして、なぜホームに放っておいたのだろうか。それもわからない。電車から降ろせばそれで解決ということにもなるまい。いったんそこで待たせておいただけやもしれぬが……。

電車はたぶん大船始発。大船では気づかなかったのだろうか。だとすれば、乗客のだれかがどこかの駅の駅員か、車掌か運転手に「無賃乗車らしき男がいる」と告げたのだろうか。けれど、人がどんな格好をしていようと、電車賃を払っているかどうかなんてわかりゃあしないだろうに。おれはそう思うのだが。それとも、常習としてJRが把握していたのか、ずっとまえから。それで、いつもチェックしていたのか、あの男を?

おれはそんなことを考えながら、状況を、男を見ていた。ただ、見ていた。それをどうにかしようとも思わなかったし、これからどうしようという気もない。おれは、ただ、見ていた。