加藤一二三九段六十二年十ヶ月の戦い

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加藤一二三が引退する。おれが加藤一二三の名前を知ったのは小さなころだ。我が家では父が将棋のファンで、週刊将棋新聞をとっていた。そして、名前に「一ニ三」という奇妙な文字列を見たのだった。

「これは‘ひふみ’と読むのである」と父。

「かっこいい」とおれ。

加藤一二三棒銀使いである。それはこのようなものだ」と父。

手も足も出ない。父はそこそこ指せたようだが、子供を将棋に熱中させるよううまい具合に手を抜くほどの実力はなかった。あるいはその気はなかった。

「もう将棋いやだ」とおれ。

もしも自分が将来父親というものになったら、その子の名前は一二三にしようと本当に思っていたくらいだ(まあ、父親などという立派なものにはなれなかったわけだが)。……なんて話はずっとまえにダイアリーに書いた。

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というわけで、だんだん順位戦を落ちていく加藤一二三、というのを見続けて、ついにフリークラスになり、それでも最後の最後まで戦って負けた(ちなみにおれはなぜかベテランA級棋士を応援するくせがあって、高橋道雄や青野照市も見続けていた)。潔く余力を残して引退する道もあるだろうし、刀折れ矢尽きるまで戦ったのち引退する道もあるだろう。勝ち負けを生業にする人間の常である。加藤一二三は後者を選んだ。これが聖シルベストロ教皇騎士の生き様、散り方である。

それにしてもなんだろうか、神武以来の天才・加藤一二三が「ひふみん」としてバラエティ番組などに出るなど考えられなかった。あくまで将棋内の伝説の人(いろんな意味で)だと思っていた。コンピュータとの戦いや、新たなる天才藤井聡太の登場(その最初の対局相手になるあたりも加藤一二三はすごいのである)など、将棋に目が向いてるタイミングなどもあったろうが、いやはやなんともというところである。しかしまあ、神武以来の天才なのである。こんなふうにブレイクするのも当然といえば当然だろう。これからも健康に気をつけつつ唯一無二の天才っぷりを見せつけてほしい。以上。

 

 ……なんだこれ、こんなの出るのか。買おうかな。