『イノセンス』/監督:押井守

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 これを見たのは最近イノセンスについての話を日記に書いたからでも、上でソウヤーの記憶コピーを読んだからでも、冒頭に『未來のイヴ』(ASIN:4488070043)が引用されていたヴィリエ・ド・リラダンの『殘酷物語』(ASIN:4480010521)を寝る前に読んでいた(プロ野球選手名鑑に取って代わられて、読みさしのまま)からでも、作中に多用されている中国語をこないだインストールしたからでもない。人の家を訪ねたらあったので、借りてきたというだけである。それにしちゃ偶然だ。抗うな、受け入れる、全ては繋がっている、か。
 で、『イノセンス』。本編の前に十五分ほどの予備知識編が入っていて親切。もっとも、前作『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』は見ていたし、ある程度はあったのだけれど。ただ、結構好きだったはずの前作を案外覚えていないとは思った。原作の士郎正宗の漫画については、読んでいない可能性が高い。
 で、本編。きれいなCGと衒学趣味のうんちくで溢れていた。「それだけしかないじゃないか」という人もいるだろうけど、俺はきれいなCGが好きだし、わけのわからぬ衒学趣味も好きなので、これはこれでかなり好もしいと言える。ただ、一本の映画としてはストーリーが物足りない。実際どうだかは知らない知らないけれど、漫画一話分という印象。たぶん、前作の方が話のスケールが大きかったと思う。無論、「魂」とはというような問いかけのスケールは小さくないけれど、ここらあたりはどうにも、と。
 まず、CG。きれいなCGはいい。きれいというか、よくできたCG。卒塔婆のような都市、九龍城のような都市、そして機械。こういうのには純粋にスゲーと思ってしまう。しかし、こんな風にも思う。写真が発明された時分には、単に写真というだけで驚嘆されただろう。映画というものが発明された時分には、写真が動くだけで驚嘆されただろう。では、はたしてCGは? まあ、ここらあたりは時間とともに振り返ればいいだけの話かもしれない。それに、それが持つテイストは不変だし、写真や映画についてもそれは同じことかもしれない。
 そして、衒学趣味。洋の東西を問わず、色んなところからの引用で溢れている。字幕で見ると引用符があったようにも思う(人の家でちらっと字幕付きで見た)。ここらへんは、掘り下げていって深く考える人もいるだろうし、冗談じゃないと放ってしまう人もいるだろう。俺の場合は放ってしまいながらも、雰囲気を楽しめるという感じ。なんとなくでいいんだ、と。しかし、この作中人物たちにしてもそうで、電脳から外部記憶にアクセスして拾ってきて何か言っているのだから、ひどく表層的とも言える。そうか、電脳はいいなぁ。知識無くとも小栗虫太郎の登場人物や、ボルヘスみたいになれるのだ。なんとなくそれらしく見えるものな、なんか引用すると。自分だってこのしょぼい日記で思わずやりたくなるくらいだ(id:goldhead:20050406#p5。この日の上に攻殻機動隊の話があってびっくりした)。
 で、核となるべき愛、その他魂に関する話。これはどうも難しいのでパスだ。せめて澁澤龍彦あたりを復習させてください、という感じ。『未來のイヴ』を読んだときも、人形というイメージではなく、むしろオタの愛する二次元キャラにその姿を見たような気がしたくらいだ。もっとも、オリエント工業などを見ていると(いつも見ているわけではないです)、精巧な人形、『イノセンス』の到来は近いように思えてくるのだけれど。
 最後に一番好きなシーン。これはもう、プラント船内のクラッキング合戦。あそこで中国語が出てくるのにメロメロ。画面と声の響きにメロメロ。そんでもって「デコイ」とか言われると参ってしまう。いや、デコイの意味は知らないけれど。あと、最後のクレジットで同じ苗字の人がたくさん出てきて何かと思ったが、多分七十五人使ったとかいう民謡歌手の人たちだろうか(人の家でパンフレットをちらっと読んだ)。
 つーわけで、何だかんだ言ってけっこう楽しめたのは間違いない。これから他の人たちの感想やら、ネタ元やらを探しに出かけよう。なにせ、ネットは広大なのだから。