頼むから静かにしてくれ

goldhead2006-04-13

http://news.netkeiba.com/?pid=news_view&no=13012&category=D

 97年の羽田盃(南関東G1)優勝馬で、現在は日高町の谷川畜産で余生を送っているキャニオンロマン(牡12)が道営ホッカイドウ競馬で復帰することが明らかになった。所有者である谷川牧場が明らかにしたもので、ヒーロー不在で売上減に悩む道営競馬を活性化しようというもの。

 俺をこれほど暗い気持ちにさせるニュースもない。競馬には一グラムの幻想も持ち込む余地がないと告げられたようだ。ささやかながらも、競馬を成立させているフィクションすら存在しない。
 俺の話をする。キャニオンロマンは俺にとって曰く言い難い馬だ。俺が生まれてはじめて大井競馬場に行こうと思ったのは、キャニオンロマンを見るためだった。‘ハイセイコーの再来’。その言葉に胸躍らせて、浜松町の駅からモノレールに乗った。そのころの俺は、世間の基準からいっても相当の前途洋々で、モノレールから見える夜景も美しかった。吉井竜一を乗せたキャニオンロマン本馬場に入ってきて、ちょうど、俺の俺の目の前で立ち上がった。カクテル光線に照らされた馬体が心底美しいと思った。
 嘘みたいな話だが、今日、俺の手元に「ホッカイドウ競馬サポーターズクラブ」の会員証が届いた。サポート馬情報からD-NET経由でいくらかでも馬券を買えれば、と思って登録したのだ。
 しかし、ホッカイドウ競馬は、キャニオンロマンを引っ張り出す。何度もの故障と闘い、ようやく余生を手に入れた馬を、もう一度走らせなければならない。はたしてそこに活性化があるのか。そこにヒーローがいるのか。言うなれば、衆人に見せつけるような自殺。そのようにしか見えない。競馬場の廃止で潰される多くの馬。潰される多くの人生。はいつくばって生きてきて、ようやく手に入れた安楽もいつわりだということ。たったひとときの栄光など始まりの暗さと終わりの暗さの前には無力だということ。その象徴としてキャニオンロマンは走るのか。生まれ、生まれ、生まれ、生まれ、生のはじめに暗く、死に、死に、死に、死んで死の終わりに冥し。競馬のはじめに暗く、競馬の終わりに暗い。それでも俺は、ひとときのために馬券を買う。