ワールドカップ:ドイツ対アルゼンチン

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グラシアース、アルビセレステ
 関東平野の南、横浜は山手の山の斜面の奇怪なアパートの一室、俺は勝手にアルゼンチンを応援して、応援して、勝手に燃え尽きた。マラドーナの姿はなぜか映されなかった。俺のワールドカップは終わった。

カルロス・テベス
 俺はテベス一押しでこの大会を見ていたので、この日の先発出場はうれしかった。何やら髪をしばって男前度もアップして、実に試合の最初から最後まで走り回ってくれた。噛みつき亀のようなしつこさ。俺は、テベスの雰囲気だとか見た目だとか足技だとか貧民街出身だとかいろいろの点が好きなのだが、この日見せたこの献身的とでもいうのか、そのプレイっぷりにますますほれた。躊躇なくハーフウェイラインよりこっちまで戻ってのディフェンス、高い位置でもあきらめずに奪いに行くプレス(ドイツの守備陣のうっかりっぷりは、ドイツ人をさぞやハラハラさせたであろう)、得点こそならなかったが、実に働いた。汗をかいた。股抜きのパスなど、技も見せた。リケルメがピッチを去ったあとは、攻撃の基点にもなっていたように見える。俺はサッカーのことをよく知らないが、こういう選手が好きだ。自分でシュートに行ってくれ、と思ったシーンもあったが、マキシ・ロドリゲスは「急にボールが来たので」という選手ではないので、横にまわすのもよかったのだろう。用意されなかった歴史、最後のPK、アルゼンチンの五人目はテベスだったのか?

ファン・ロマン・リケルメ
 前半はアルゼンチンが圧倒的にボールを支配した。その全てはリケルメを経由した。とにかく、このチームはリケルメのチームであり、それを信じてボールを預ける。不意に「人の帰する事赤子の母を慕ふが如し」という言葉が浮かんだ。新選組土方歳三の、晩年を評した言葉である。信頼される野戦指揮官。しかし、抜けば玉散る名刀兼定、スルーパス一閃の切れ味もある。が、この日はクレスポリケルメが土方ならクレスポは永倉? 原田? テベスは大石鍬次郎、メッシはもちろん沖田総司だろう)への決定的なラインが一本ほどしかひかれなかったように見える。とはいえ、アジャラのヘッドにつないだのは彼のコーナーキック。ニアのソリン、ソリン、ときてアジャラ。見事。ただ、後半はその後ぱったり姿を消したように見える。カンビアッソへの交代もやむなしだったか。リケルメがいなくなると、前線へのボールの入り方などがまったくかわり、そのあたりの変化はおもしろく感じられた。


アボンダンシエリレオ・フランコレーマン、そしてカーン
 アボンダンシエリにクローゼのひざ蹴り。時間かせぎのブーイングなども出たが、あの苦悶の表情は本物だった。時しばらくおいて交代。安定感を与えてくれた正キーパーの退場。そして、フランコ。もちろん自軍キーパーのようすには注意を払っていたのだから、心の準備はできていたのだろう。しかし、やはり途中からは入りにくいものだろう。対してドイツはレーマンが立ちふさがる。アルゼンチンからの決定的なシュートはあまりなかったが、その存在感がテレビ越しにも伝わってきたのはPK戦。実に大きくはやく伸びやかだった。フランコ、どこか思いきりに欠けた。そのPK戦の前、いわく因縁のあるオリバー・カーンレーマンのそばにより、声をかけ、握手する。もしもこれでドイツが負けたら、これが勝負のあやとなったと言われかねない場面。歴史は美談を選んだか。

フリオ・リカルド・クルス
 アルゼンチン、三枚目の切り札はクルス。俺のようなにわかは、「まだ他にFWがいたのか」と思う。が、狙いは解説によって了解。高さのある彼を入れて、セットプレーなどの守備面にも活用しようという狙い。敵はボロブスキーなど入れ、さらに高さを使おうというのだから、それに対する解答、パズルのピースを入れるようなもの。……が、この判断が結果的に正解ではなかった。別のクイズに別の答えが必要だった。遠見の角を打ったが、かえって動けなくなる。同点に追いつかれ、アルゼンチンは攻め手をうまく構築できない。このクルスとて超一流の選手なのだろうが、あまりフィットしていないように見える。バラックが止まりかけるまで、同点から延長戦前半まで、正直、俺はもう完全に負けるものと思っていた。たとえば、クルスではなくメッシだったら、ドイツの守備を切り裂けたのか。キーパーにアクシデントがなければ、どんな手札をきったのか。アイマールサビオラ。俺は、アスリートの動きそのものも好きだが、むしろ勝負事のこういったあやにひかれる。それが面白くてスポーツを見る。

バラック、そしてオドンコール
 ドイツの選手にも触れておこう。小皇帝ミヒャエル・バラック、口先だけではない「足がつってもプレイする」姿。敵ながらあっぱれとしか言いようがなく、あるいはPK戦も彼が決めたか。MOMに選ばれたのも当然だろう。そしてオドンコール。途中出場で出てきて右サイドを果敢に攻める。ソリン、そしてテベス二人掛かりで応対せねばならぬ突破力。力強さ、速さを感じさせる選手だった。

……延長戦に入る前、俺の好きなChumbawambaの代表曲、"Tub Thumping"が流れた。メキシコ戦のときも流れたから、これが延長のテーマなのだろう。

I get knocked down
But I get up again
You're never going to keep me down

 またいつか応援する機会があるならば。さらばアルゼンチン代表。