自称ウクライナの自称苦学生来たんすよ

 「ワタシ、ウクライナカラキマシタ。日本語ベンキョーシテマス。学費カセグタメ、自分でツクリマシタ」と、ウクライナ人(自称)の物売りが職場に来た。背はゆうに190cmはあろうか、薄いブルーの瞳の白人青年。よく言えば物憂げ、あるいはうつろな感じで、正直けっこうかっこいい。Tシャツにバックパック背負ってて、五円玉で作ったキーホルダーをぶら下げていた。
 小さな箱を開けると、小さなマトリョーショカや民芸品風ボールペンなどが雑然と、というか無茶苦茶に乱れて入っている。固定せずにそのまんま詰め込んできただけ。売り物もどう見ても安い土産物で、とてもじゃないが自作には見えない。それでも好奇心で、「このマトリョーショカいくら?」と聞けば「コレ、一番タカイ、三千円」、「このボールペンは?」、「コレ、笛にナッテル。一番安い、千円」。「ちょっと高いよ」などと言っても、後は、「ワタシウクライナカラ〜」「学費〜」を繰り返すのみ。演技なのかもしれないが、本当に語彙が少ないように思えた。
 しかしまあ、なんといっても自称ウクライナ人である。ブブカシェフチェンコの国の人である。俺もウクライナ人と称する人間と会話したのは生まれて初めてだ。袖ふれあうも多生の縁、一つ買ってやろうと「この笛のボールペン、五百円なら買う、五百円」。が、返答は「学費カセグタメ自分でツクリマシタ。コレ一番安イ千円」。
 ……あれ、値切り失敗。普通売るところじゃないのか? いきなり半額はさすがにふっかけ過ぎたか? それとも、本当に最低限の日本語しか仕込まれていないんだろうか。まあともかく、五百円でもかなり高すぎるくらいの代物、残念ながらお帰り願った。悲しそうな瞳をしていたので、ちょっとかわいそうにも思ったが、あれを千円で売ろうというのならもうちょっと営業努力が欲しい。一応、「もっとアクセサリとかの方がいいよ。シルバーアクセとか。あと、もっと金のありそうな会社に行かなきゃ」などとアドバイスしたが、余計なお世話か、ぜんぜんわからなかったかのどちらかだろう。でも、一番欲しかったのは彼がつけていたシルバーのリングだったしな。

※で、もちろん検索。いくつかのサイトが引っかかった。

 関西の方での遭遇談が多いかな。写真を載せている方がいるけれど、別人だ。女性バージョンもあるらしい。トークや商品の質も違うようで、今日の彼はまだまだ駆け出しといったところだろうか。あるいは、あの純朴(?)さが魅力で、あえてそうしているのかもしれないが。
 それにしても、彼らは何者なんだろう? 本当の留学生が留学生同士でつるんでやっているのか、もっと組織化された集団なのか。本当は何人なのか。いくら気にしたところで、全ては青い瞳のみが知るところの話なのであった。