この世の神と仏

 悲惨な事件や事故があると「この世に神も仏もないのか」という言葉が出てくる。さらにニヒリスティックな態度で「宗教を信じる人間は馬鹿だ。これが証拠だ」とまでなる。
 だが、ちょっと待ってほしい。その神や仏はどこの神や仏だろうか。この世界の宗教の中で、「神が存在し、この世界をもれなく救い続けている」とするものがあるだろうか。探せばあるかもしれないが、たいていは現実が悲惨であるということ自体を否定はしない。その上で、その現実に対する救いがこの時間軸上の未来に訪れたり、来世に訪れたり、各人の心の中に訪れたりするという設定がある。あるいは、信心が足らないからこういうことが起こるという恫喝的なものもある。
 したがって、「この世をもれなく救い続ける」神とは、それを否定した人がそれを想定した瞬間に生んだ、彼の神である。この世で子供を作って放っておくというのは道理に反するが、神を作って放っておくなどさらにもってのほかである。彼はその神がこの世を救わぬ理由をその神に問いつめ、さぼるな、帰ってこい、仕事をしろと言わねばならぬ。世界を放っておいてはいけない。
 だが、ちょっと待ってほしい。その彼とはどこにいる彼だろうか?