掘り返された電話機の記録

 青森県八戸市の母子3人殺害事件で、殺害された母親(43)が腹部を切られ、中に人形とみられる異物を詰め込まれていたことが15日、分かった。

http://www.nikkansports.com/general/f-gn-tp0-20080115-307184.html

 ワイドショー御用達の犯罪心理学者にとっては、ストーリーを構築しやすいケースではないだろうか。ナイフは男根の象徴、ドラえもんの四次元ポケットは子宮のメタファーであり、チベット仏教的死と再生のイニシエーションである云々(まったく無意味です)。
 殺害した亡骸の腹部に異物というと、まっさきに俺は電話機を思い出す。電話機だ。しかし、なんだったか思い出せない。フィクションかノンフィクションか。ジェイムズ・エルロイのロイド・ホプキンス・シリーズにそんなのあったかしらん。と、検索すればいい。出てきた。

しかし、なぜ電話機がなかったのか? それは鑑識の現場検証で明らかになった。美津子の遺体を調べてみると、切り裂かれた子宮の中には最新型プッシュホン式電話機と車の鍵がついたミッキーマウスのキーホルダーが無造作に押し込まれていたのだった。

http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/ringetu.htm

 実際の事件、しかも未解決事件だったか。1988年の事件だから、もう20年も経つ。20年前の俺はまだ8歳だった。しかし、俺が腹部に異物と聞いて、まっさきに思い出したのがこの電話機だった。8歳の俺がそれを聞いたのか、その後に聞いたのか、読んだのか、もはやわからない。しかし、俺の記憶の王国の外壁の中とか、裏庭の木の下とかに、確かに電話機は埋められていたのだ。遺体の腹部に異物という単語に反応して、すぐに召使いが掘り返してきた。
 たとえば俺が殺人を犯したとき、沈黙する遺体の腹を見て同じ召使いが同じものを持ってくるかもしれないし、別の召使いが人形を持ってくるかもしれない。今、俺がと言う俺が知らぬ間に召使いに主人の座を奪われて、もっと大きなものを掘り返してきて何かするかも知れない。どこまで俺の俺なのか。
 記憶の王国も俺も召使いも皆俺だろう。各人は各人の無意識の国まで各人として対外的な責任を負わなければならない、のではないか。違うだろうか。しかし、心神喪失などといって、アルコールに乗っ取られたりしたらケツを拭かなくてもよかったり、ちょっとウンコついてても許されるか。そこのところの、脳の中のもうちょっと厳密なことの解決が終わったのちには、また人間の自己であるところの範囲についてあらたな国境線が引かれるのかもしれない。
 ……などというのは、昨日感想を書いた『女王天使』の影響が大であって、俺の王国は非常にフィクションの影響を飲み込んで俺の俺の俺なのである。