『上京ものがたり』西原理恵子

上京ものがたり
 このキャラのサイバラははじめて読んだ。そうだ、『営業ものがたり』で営業して、大阪人を中心に「こんなの先生の漫画らしくあらへんがな」とか言われてたやつだ。
 リリカル、リリカルな西原だ。頭の中にチャットモンチーの「東京ハチミツオーケストラ」なんて流れてきてしまう。

 リリカルさの一本調子で走りきられてしまう、読み切ってしまう。凡百の漫画家とは力量が違う。やっぱり天下のサイバラセンセや。
 しかし、そのサイバラの弱い部分をさらけ出しているところがすごい。いつだったかPTAだか教育委員会だかと揉めて、すこしだけ晒すことになってしまった弱み。
 あるいは、仕事へのよろこび。エロ小話のカットをほめられたときの喜びよう。認められることの喜び。その喜びと銭儲けに、なんのてらいもねじれもないのが、この人の特徴だ。
 ところで、ここに出てきたエロ本ってのはどのあたりなんだろう。俺は近代麻雀を読んでいてサイバラを知ったという、あるいは少数派に属するタイプなのだけれど、それ以前だろうか。麻雀は出てこなかったな。
 上京、か。俺は東京に通ったことはあるが、通わなくなった。東京に負けたのか。負ける前に逃げたか、戦わずして逃げた。戦う前から負けている人間だ。いつか生存のために戦わなければいけない日が来るかもしれないが、ぬるま湯の地獄、豆腐の中のドジョウ。勝った者からも遠く、負けた者からも遠い。そんな敗北主義者がなぜサイバラを好むのか、ずっとずっとファンなのか。それはどこか、やはり西原理恵子が人の弱み、自身の弱み、を認めているところに起因するのかもしれない。よくわからない。続編も読もう。