ある再訪

 有線がぶっ壊れてるのが悪くて、窓際に競馬用のポケットラジオ置いてたわけ。オートオフで切れたから存在を忘れたんだろうな、俺、駅で別れたあと、帰り道ひとり気づいて、大切なポケットラジオ。それで、豚肉と炊き込みご飯の素と、キッチンハイターとヘアワックス入ったしゃりしゃり袋ぶらさげて間抜けに引き返して、ネオン光る中に入って、カウンターのやり手婆みたいな婆にその旨告げたら、「305? 今清掃中だから取りに行って」ときたもんだから驚く。「フハッ、直接!」とリアクションしたものの、なんとなく面白いシチュエーションと思ってエレベータ。
 薄暗い中歩いてちょっとドア開いてる305、もしも間違ったら血を見ると思って、コココンッとノック、そして「すみません! 忘れ物したんですけど」と場違いな元気はつらつ、奥から「はーい」と声、一歩入ると下にスリッパ二、三人分。奥から長身で化粧っ気のない若い中国娘出てきて、「これ……」と、ポケットラジオ手渡してくれる。やけになって「どうもありがとう!」と笑顔で挨拶ジャパニーズ・ジェントルマンの俺、悪いね。エレベータに戻り速やかに下降。
 カウンターに報告必要かどうか、必要ないかと思っていると、とんずら禁止の合図音鳴って、カウンターから辛うじて聞こえるくらいに「ありましたー?」と婆、俺カウンターに向かっていって、手に持ったポケットラジオ見せて、「ありました! どうも!」と超好青年一号、しゃりしゃりスーパーの袋ぶら下げて外に出て、寒いのになんだか暑くなってて。