『インビクタス/負けざる者たち』を観たのこと

インビクタス / 負けざる者たち [DVD]

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ラグビーとわたし

それは、1995年のこと。
マンデララグビーのワールドカップで、国の恥とまで言われた南ア代表チームを初出場初優勝へと導いた。
そして、その勝利の瞬間、一国の歴史が永遠に変わってしまったのだ。
いったい彼はどうやって、この偉業を成し遂げたのか――?

誰もが驚くのは、これが実話だということ。そして、ほとんど知る人がいないこと。

 Amazonの商品紹介より。「誰もが驚くのは、これが実話だということ。そして、ほとんど知る人がいないこと」というのは、ラグビーファンに失礼ではないか。などという俺もラグビーのルールがわからない。わからないというと語弊がある。わかろうとしたことがない、が正解だろうか。わかろうとしてやっぱりわからない囲碁よりも消極的である。
wikipedia:インビクタス

またラグビーはトライ5点(当時4点)、ドロップ・ペナルティーゴール3点、コンバージョンゴール2点と複雑な得点方法のうえ、ルールも理解するには容易ではなく、教育水準の低い貧困層には受け入れられにくいものとなっていた。

 だから、これについても「興味がないからじゃね?」と思うのだけれども。たぶん、きっと。
 それで、映画の方は、後半のほとんどはこのラグビーのシーンになる。「じゃあ、見ててわかんねえの?」というところだが、それがそれなりに見ていられる。そんなふうに作ってある。ジョナ・ロムーの突進力?をファウル?でもいいから食い止めて、みてえな、まあなんとなく、そのあたりをよりぬきサザエさんで。このあたりの距離感、たぶんラグビーに不案内な国民が多くいたという劇中要素もあるだろうけど、制作者がアメリカ人というあたりも大きいのではないかとも思う。どうだろうか。

南アフリカとわたし

 話は前後するが、前半はマンデラ中心だ。マンデラ伝記。マンデラ南アフリカ南アフリカというと、中学と高校で一緒だったK君のことを思い出す。一緒だったといっても、ずっと一緒だったわけではない。彼は中2のとき親の都合で転校したのだ、南アフリカに。
 引越してからしばらくすると、クラス宛に手紙が来た。こんな内容だった。
 「外は危ないので、自由に外を出歩くことはできず、学校への通学もすべて車での送り迎えです」
 「偉そうにしている白人はむかつくけれど、もっとむかつくのは白人の子分みたいになっていっしょにえばる黒人です」
 一字一句覚えているわけではないが、こんな内容だったとはっきり覚えている。自分と同い年で、さっきまで知っていた人間がえらく遠いところに行って、「南アフリカの人種差別」とかいう、ニュースや教科書の話題に直面しているというのが衝撃だったのだ。
 ちなみに、K君はそれからも何度か手紙を送ってきたが、だんだん文面から漢字が少なくなり、日本語もおかしくなっていった。誰かがアルジャーノンみたいだな、とか言ってた。日本人学校のようなところに通ってはいなかったのだろう。しかし、高校になると帰ってきて、もとからちょっと変なやつだったのが、ややワールドスケールの変なやつになっていて、どっかしら良い大学に入ったところまでは知っている。

それでインビクタスってどうよ?

 それで、映画の舞台は1995年。今から15年前だから、俺が15でK君も15、というと、彼はまさにそのころの南アにいたわけか。たとえば、この映画でとくに白人にへつらう黒人は描かれていなかったが、おそらくはそういう現状もあったのだろう。今もあるかもしれないが、よくわからない。ただ、映画で大団円したように、南アがすごくよくなったかどうかというと、まだまだおっかないところがあるのも実情だろう。こないだの、ラグビーでないワールドカップ前にもさんざん言われてて、終わってみればそれほどでもなかったよみたいな話だとか。
 そういうわけで、比較的未来志向でナイスな主題を持った映画でありながらも、そのあたりのことがチラチラ頭をよぎる。映画の方も、そのあたりをまったく覆い隠す風でもないし、わざとらしくマンデラと娘が和解したりもしない。大統領を狙う不穏な影……はスカされるけど、まあ、そんな投げっぱなしジャーマンなところがある。
 でも、それでも、ラストシーン(以下ネタバレ)、歓喜の群衆に囲まれて立ち往生した車の中で、大統領が「ゆっくり行こう、急いでいない」みたいなこと言ってて、そのへんだな、とか。たとえば、白人に取って変わった黒人が、逆に少数派の黒人弾圧やるのは、たぶん急にできちゃうことなんだよ。みんな頭にきてて、自分の家族がブッ殺されたのが昨日の話だったりするわけだ。けど、そんな道を選ばなかったわけだし、時間をかけてやっていこうぜ、みたいな。ただ、いまはこの歓喜に身を委ねたいみたいな、そんな永遠の一瞬みたいな、な?
 というわけで、ラグビー+南アフリカというあたりで、どうもとっつきにくいかと思いきややっぱりよう見ることができてイーストウッドすげえや。でも、ガツンとくるところはあんまりなかったとか、そんな感じもあった。おしまい。

関連☆☆☆

 ……日記を探しても『グラン・トリノ』の感想がなくておかしいと思ったら、Twitterでつぶやいてた。なぜかわからないが、ワールドカップ(サッカーの)の日本対デンマークの合間である。意味がわからない。

 ……アフリカを舞台にした映画といえば、これのアミンはすごかった。