黄金頭王、夜道を行く


 するすると這いよって、くるりと巻きついてきゅっと絞める。ばたんと叩きつけてメッタメタにする。

 夜道を歩くただひとりの俺は自信と栄光に充ち溢れている。あらゆるものを恐れず、融通無碍、闊歩、闊歩。鷹揚な王様、ときにはひどく冷淡。冷酷な王様、ときどきとっても同情的。なんでもいい、肩で風切って歩く、おまえらただひとり家から出るな。

 台風の去ったこのあたり俺のもの。猫だけは許すが一匹の猫もいない。

 いくら夜道を徘徊しても、お巡りに声をかけられたことがない。世界がそのようにできているためである。

 俺は磐石だし、なにも恐れるものはない。俺ほどのやつはそうそういない。ほとんど唯一のもの。この世のなりたちから在り様、行く末までこの一点にあって、ほかになにか主体や意識があるはずもない。だから一人にしておいてくれ。

 天体も銀河も。だから、二呼吸するだけで月も顔を出す。

鈍い金色を滞びて、空は曇つてゐる。―相変わらずだ、―
とても高いので、僕は俯いてしまふ。
僕は倦怠を観念して生きてゐるのだよ、
煙草の味が三通りくらゐにする。
死ももう、とほくはないのかもしれない……

「秋」中原中也

 おやすみ、メーンの王子、イングランドの王。
 (おやすみ)