進め、ビートはゆっくり刻む


 2人になったくるりが5人に増えた。ライブ中に2人脱退して、また復帰した。人の出入りの激しいバンドである。

 新加入の一人の男はボーカルとギターとチェロをやる。もう一人は女性でトランペットとキーボードをやる。バンド内でオーケストラができる、とは言わないが、なにかそのようなものもできる。「ブレーメン」の楽隊のメロディが加速する。

 新曲も披露される。「ペンギンくん」と「のぞみ1号」だった、か。チェロとトランペットがある種のセンチメントのようななにかを加える。新しさがあって、楽しみだと思う。まったく、楽しみだ。

 新しいドラムの人は表情豊かで歌ったり泣いたりしながら叩いているように見えた。新しいメンバーで奏でられるWからはじまる曲、「ワールズエンド・スーパーノヴァ」、すばらしい。「ワンダーフォーゲル」、「ハイウェイ」、俺のいちばん好きなところ。

 湯気湯気などとツアー名銘打っているので「鹿児島おはら節」をやるかと思ったらやらなかった。サユリ・イシカワが颯爽と登場して石巻を応援する曲を歌う。天王洲アイルのアイルはカウパーだというような話をする。歌わなかったかもしれないし、話さなかったかもしれない。りんかい線の運賃は高い。

 ギターはザクザクと刻むし、リズム隊はズンズンくるし、トランペットの人が息継ぎの合間に見せるキラーのような目つきにはしびれる。俺は岸田繁のように、狂ったように踊りたかったが、スペースが足りなかったし、俺は今まで狂ったように踊ったことはない。

 ひとり部屋であやしげに踊ることはある。

 音楽とは、音とはその瞬間その瞬間たたきつけられて過ぎ去って、それを振り返る間もなく次から次へと連なる未来への連続であって、過ぎ去ったものは一瞬にまで圧縮されてしまうものなのだし、その瞬間、瞬間のみがただ新しく、前にだけ連なっていくものであって、この一瞬は絶え間なく、まったく新しいものなのだろう。

 翌朝はよく晴れていて、俺は朝起きた瞬間からひどく否定的な想念が強く、このところは靴を履くのもやっとという塩梅で、頭になにか詰まっているようだし、長い文章をひとかたまり思いついても、次の瞬間に黒板消しが消してしまう。

 空はよく晴れていて、俺の足どりはひどく重く、靴を履くのもやっとという塩梅で、頭の中に詰まったなにか、消し去るなにかについて考えたり、考えなかったりする。