若松孝二の本を読んだってしょうがない、わけでもねえが

 ……やっぱり映画観たいよな、とか思いつつも、ソフト化されているのかいないのか、いたとしても入手できるのかできないのか、などと。というか、新作が出ないのは残念至極だが、いずれ「ジャック&ベティ」で若松週間とかやってくれるだろう。やるよな? もちろん。

時効なし。

時効なし。

若松孝二・俺は手を汚す (1982年)

若松孝二・俺は手を汚す (1982年)

 というわけで、とりあえず自伝語り的な本を二冊読んだ。内容はもちろん重複しちゃうんだけど、おもしれえんだな。『戒厳令の夜』(未見)で、関門橋を検問するシーンを撮るのに、撮影用のパトカーで実際に車の列止めてゲリラ撮影して、ホンモノのパトカー来たら逃げたとか、まじかよ? みたいな映画の話とか、監督本人の生い立ちとか体験談とかさ。日本の若い運動家の連中は食ってくこと考えないからいけない。だから、そういうやつらが働く場を作るために、鉄火丼のチェーン店をやろうとしたとか、映画撮ってないときは宝石や日本刀や土地転がししてたとか、なんかそのあたりの生きるセンスみたいなもんとかさ、ちょっとすげえよなって。
 そんでもって、でもやっぱり体験談的に強烈なのはパレスチナでの話かな。『時効なし』には重信房子の手記がちょっと引用されてた(『情況』(2003年6月号別冊より)。若松、足立両名がPFLFの撮影企画を持ち込んで、重信のアパートの二階に引っ越してきてきたときのこと。

 朝、彼らの部屋を訪ねると、二人はすでに花札に熱中している。どちらが朝食を作るのか? の勝負なのだ。食事を作る、食器を洗う、買い物に行く、行動の一つ一つをどちらがやるのか、その度、花札勝負をして決着をつけるのだ。しかも、明日から絶交するのではないかと思うくらい、思い切りの悪口をお互いに投げつけ合う。
 「世界の違う人たちが来たなあ……」
 というのが私の第一印象だった。

 『赤P』観るかぎり、左翼論理マシーンみたいに見えた重信房子にとっては、まさに「世界の違う人たち」には違いあるまい。
 それで、結局撮影許可がおりて、さらに敵に遭遇する危険のある斥候隊に三人のうち誰かが行くということになる。『俺は手を汚す』の方から。

 重信は女だから当然行けないんで、俺と足立のどっちかが行くということになった。俺も突張っちゃって、俺が行くから君が残れと言った。足立君も、俺が行くから若ちゃん残ってくれ、と。自分としては、本当のこと言うと行きたくないところもあるのね、まァこわいわけですよね。敵陣に入って行くわけだから。だけど日本人ていうのはすぐ突張って、テメエが行くって言うじゃない。俺はそういうつもりだったけど、足立は違ったね。

 すったもんだしてるうちに、最後に足立が俺に、このフィルムを日本に持って帰って本当に上映できるのは、若ちゃん、あんたしかいない、と。万が一あんたがここで死んだりなんかした場合は、このフィルムを持って日本で仕上げをしたって、経済的な才能なんて自分には全然ないっていうわけよ。全国上映して歩くにしても、テレビへ売るとかしてもね。オレに行かしてくれ、あんたは残ってくれと。

 それで結局足立が行くことになる。また、『時効なし』の重信房子の引用から引用。星明りの午前三時すぎに、足立が出発したあとのこと。

 昼と夜との温度差は二十度もある。部隊が出かけたのち、寝られない若松さんと私は冷え込む石の上のマットに座って時が流れるのを待った。
 「これじゃあ、あいつが戻って来ても戻って来られなくても、一生戦友だな。逃れられない仲だよ」。若松さんの静かな口調に愛情がこもっていた。良い奴だなと思った。良い奴らだった。

 おれ、これいい文章だなと思った。重信房子の文章。それで、山を下りたのちに、すっかり打ち解けたコマンドたちが一斉攻撃を受けて玉砕する。一緒に生活していたやつが公開処刑でぶら下がってる写真を新聞で見る。『俺は手を汚す』から。

 俺、ボロンボロンくやし涙が出てね、やっぱり彼らは本当に親切なんだな、やさしいんだな、と思った。そこで攻撃されるというのがわかっててね、すぐその日に俺たちを山から降ろしたんだよ。俺も足立も、おそらく重信も総攻撃くったら戦争の体験も何もないんだしね。ちょっとぐらい訓練したからって、逃げるにしたって、俺達の体力とは違うからね。

 そんなことがあったから、パレスチナのためには、ここで一回てめえが死んだんだから、一生肩にしょって生きなきゃダメだなと足立君と話した。

 ここの回想、『時効なし。』の方でも「ボロンボロン」って言ってて、口癖みたいなもんかもしんないけど、本当にそうだったんだろうな、とか。それ以前に「まァこわいわけですよね」って言えてしまうところが、なんつーのか、人間味がある、というより強いなって思うんだよ、なんか。そこがかっこいいんだ。
 で、日本に持ち帰ったフィルムが『赤P』。

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 「まだ撮りたいものがある」って現地に残った足立監督がずーっと経って撮ったのが『幽閉者』。
幽閉者 テロリスト [DVD]

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幽閉者(テロリスト)

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 おれ、サントラも本も持ってるわ。岡本公三が「オリオンの三つ星」って言ったのがわかるってくらい、向こうの星空ってのはすごいらしいが……。まあいいや、それじゃ。

>゜))彡