梅本弘『流血の夏』を読む

流血の夏

流血の夏

……一般的な日本人にとっては、第二次大戦中、日本とフィンランドが軍事的な協力関係にあったことなど想像の外であろう。今の日本にとってフィンランドはあまりに遠く、そして縁がうすい。第二次世界大戦当時もそうであったのだが、実は考えてみると日本とフィンランドはあいだに国をたった一つ挟んだ隣国同士なのである。
「あとがき」より

 数冊本を読んだだけだが、一応は想像のうちなので、おれも一応は「一般的な日本人」ではないのかもしれん。本書はソ芬戦争における、継続戦争を取り扱った本である。実に詳細に取り扱った本である。三突や「メルス」についても、車両番号、機体番号の世界だ。おれはそこまでフィンランド軍について……というところもあって、適宜地図を見つつも、全体的にざっと読んだ。
 それにしても、フィンランド軍の劣勢でも、それを跳ね返そうとする知恵と勇気とパンツァーシュレックというか。冬戦争時とは質も格段にレベルアップした赤軍相手に決死の抵抗を試みる。このあたりは、シモ・ヘイヘも所属していた民間国防組織みたいなものの精神なんかからも培われているものだろう(終戦時解散が条件にあがっているくらいだったが)。
 むろん、精神論でどうにかしようとした話ではない。たとえば、フィンランドは国力に見合わないほどの諜報力を有していたという。日本からソ連の暗号を受け取っていて、それを駆使したり、戦争終結時も万が一の最終抵抗作戦(「ステッラ・ポラリス作戦」)を用意して、戦時中に得た情報資料を船に乗せてスウェーデンに送り出したりしているらしい。その資料や情報は、スウェーデン日本大使館経由で日本にもたらしつづけてくれていたという。まあ、肝心のこの国ときたらゾルゲとかアメリカの暗号解読とかにズタズタにされてた……んだよな。
 まあしかし、本書は写真も充実しているのだが、フィンランド軍の兵装や兵器ときたら、ドイツ軍の流用品、ソヴェートからの分捕り品、コピー品など、ともかく寄せ集め感というのがすごい。フォッケル、ブルーステル、そしてメルス。陸でも一緒なんだな、と。幸運のスワスチカつきのT34とか、その他色々な。
 あとはそうだ、ちょっと興味のあるクールマイ戦闘団なんかもちょっと出てきたね。Ju-87やFW190でね。ただ、そのあとのラップランド戦争(ソ連と講和した結果、ドイツ軍追い出さなきゃならなくなった)な。昨日まで一緒になってソ連と戦ってた仲間を追い出さなきゃいけない。はじめは「明日はここに行くから、あとは流れで」みたいな撤退だったんだけど、途中からソ連もドイツも「ちゃんと戦争しろ」、「ちゃんと焦土にしろ」ということになって、マジの戦いになっていたという。戦争が終わって家に帰ってみたら、ドアノブにドイツ軍の残したトラップでドカーンみたいな話も少なくないらしく、ドイツに対しても微妙な印象を持ってるのだとか。
 とはいえ、しかしまあフィンランドという小国が必死に戦い、また、政治的にもうまく立ち回ったというところは、なんというか奇跡的にも思える。カレリア地方という、おそらくは重要な地方を失ったり、もちろん多くの人命が失われたり、そりゃあ超大国の前に無傷ではおられん。おられんが、なんとかやった。日本はやりすぎたし、やられすぎた。ドイツも同じだ。でも、資源もあまりなく(ヒトラーヒトラーで、フィンランドやトルコとかのご機嫌を伺う必要があったという点はあったんだろうな、とか)、人と技術が武器だ、とか、三国で似ているところもあるのかな、とか。わからんけどね。
 いずれにせよ、国境線なんてものが存在するからいかんのだ、というところまではあと何歩跳ばねばならないのかわからんが、まあとりあえずはそんなところで。

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……まあ、おれが「一般的な日本人」でなくなった理由はこの人のせいなのは言うまでもないが。


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……ちなみに、『流血の夏』に出てきた知ってる名前といえば、ルーッカネン、ハンス・ウィンド、ついてないカタヤイネンくらいか。