ゴミ箱の中のルールブック


 ゴミ箱のなかのゴミのたまったポリ袋を取りだすとき、《ゴミ箱の中のルール》という言葉が不意に思い浮かんだ。思い浮かんだものはもったいないので、書き留めておこうとiPhoneを起動させtwitterに打ち込んでみようとすれば、「ルール」と打ったところで、「ルールブック」と予測変換が促す。おれはそれを採用する。
 《ゴミ箱の中のルールブック》
 ゴミ箱の中にゴミ場の中なりのルールがあって、それが記されたものが《ゴミ箱の中のルールブック》なのか。どこかにあったルールブックがゴミ箱に打ち棄てられてあるものが《ゴミ箱の中のルールブック》なのか。あなたはどう思うだろうか。
 おれははじめ「ルール」と思ったのだから前者よりのものをイメージする。とはいえ、おれにはゴミ箱の中のルールがわからぬし、それがだれによって、なんの目的で書かれたのか、はたしてそれがあるのかあなた方に提出する証拠がない。
 それは打ち棄てられたルールブックなのだ、という人の意見に対して、立つ瀬がない。ただ、だったらだれによって、なんの理由があってルールブックは打ち棄てられたのか、その根拠を示せと言うよりない。不毛なことだ。
 そもそもルールが先立つというのはおれの不意に過ぎない。あるいはルールブックが先にあったのかもしれない。それはルーラーによって記されたもので、ルールが先立っているというのは思い違いかもしれない。ゴミをかきわけて今のそいつの顔を見に行く必要があるかもしれない。あるいは、時をさかのぼって起源に立ち会う必要があるかもしれない。
 だが、安心すべきだ。すべてゴミ箱の中のことだ。世界全部のことなんかじゃないんだ。ゴミ箱の中のルールブックも、ゴミ箱の外からすれば、それはそこで産まれたものであろうと、そこに打ち棄てられたものであろうとたいした違いなんてありはしないのだ。
 狙いを定める。肘を曲げて伸ばす、手首にスナップをきかせる。抛物線を描いて丸めたちり紙が飛んでいく。その行方なんか気にしないで、おれは布団にもぐり込んで寝てしまう。