おれは圧倒的に強い人間が見たいんだ

 おれは大相撲現役時代の曙が好きだった。圧倒的な感じがした。そこがよかった。その巨躯と「あけぼの」というちょっと不釣り合いなところも悪くなかった。
 とはいえ、おれは序二段くらいからBSで相撲中継を観られるような身分じゃないし、そもそも相撲のことなんてよく知りもしない。曙がどういう力士だったのか、その技術、戦績、物語性、すべてにおいてよく知らなかった。ただ、自分の理想とする圧倒的な存在としての曙が、あたまの右上の方にチラチラ存在していた。それだけの話だ。
 その曙が総合格闘技に参戦すると決まったと聞いたときは、そりゃあ……。まあ、その後のことはもういいんだ。

 おれにはなにか圧倒的に強い人間が見たい、という思いがある。そう思ってまず出てきたのが、現時点での総合格闘技の最重量級最強の選手(そもそも誰だか知らない)でもなく、かつてのエメリヤーエンコ・ヒョードルでもなく、ヒクソン・グレイシーでもなく、大相撲時代の、横綱としての曙だった。そういう話である。
 と、ここまで書けばなんの話をしたいのかお分かりのことだろう。進撃の巨人といっていいだろう、モンゴル国アルハンガイ県バットツェンゲル郡出身、元遊牧民にして元鳥取県体育指導員「寝て、起きたら強くなっている。恐ろしい」、本名アルタンホヤグ・イチンノロブ、逸ノ城のことである。
 おれは白鵬逸ノ城の対決が見たくて、NHKにチャンネルを合わせた御嶽山が噴火していた。びっくりした。白鵬、神の怒りかと思った。違うか。まあいい、慌てて教育の方に合わせた。結果は……。白鵬が強かった
 が、おれのなかで逸ノ城の「圧倒的に強い人間なんじゃないか?」という思いはおさまらない。かつて曙がいたあたり、頭の右上の方に「最強人間」としてふわふわ逸ノ城が存在し始めているのである。あらためていうが、おれは相撲をよく知らぬ。そして、相撲取りが他の格闘技と争わばどういうことになるかは多少知ってるつもりでもいる。しかし、逸ノ城に圧倒的になってほしい。「ひょっとして無敵じゃね?」とか思わせてほしい。
 チームスポーツなんかじゃ、どうも判官贔屓のくせが出るおれが、こと格闘技のようなものに関しては、絶対王者が存在していてほしいと思う。その矛盾のわけは知らないが、そういうところがある。そしてまたできれば、無邪気に60億分の1の男みたいな、そんな舞台が地上波で観られればなあ、などと思うのだった。おしまい。

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……この本に夢中になったのも「全盛期の木村政彦最強じゃね?」感がビンビンに出ていたことによる。

……生で曙を見たことはある。