「すき」のない名作『ぼくの伯父さん』を観る

ぼくの伯父さん [DVD]

ぼくの伯父さん [DVD]

いとう:タチの時代に、MVがあれば、タチはあんな晩年を送らなかったと思うんですよ。あれほどすごい切り返しや構図が作れて、音楽と映像を合わせられるアイデアがある。意味がよくわからないけど、なぜか見てしまう映像が作れる。だから彼は今だったら、MVの監督になれていたはずなんです。

今必要な笑いとは? いとうせいこうがジャック・タチ作品を語る - インタビュー : CINRA.NET

 いとうせいこうがこんなこと言ってた意味、本作を観てわかったような気がする。音楽と犬の動きが本当にばっちりシンクロしているというか、合っているというか……。

だから僕がどんなものを「モダンだ」とか「おしゃれだ」と感じるかは、あれを見てもらえればわかる。だから学生にも見せて、「おしゃれな映像っていうのは、こういうものだよ」って教えていたんです。

 そしてこの「モダン」、「おしゃれ」の感じ。これも「ああ、そういうものなのだ」と納得した。緻密、完璧、すごくすごい。そして、それを眺めるさめた目線というようなものも、いくらかは……。
 でも、なんというのかおれにはいまいちピンとこない。隙のない名作なのだろうと客観的に言えても、「おれこれ好きだわ」とは言えない感じがある。おれはもっと泥臭い、ラーメンが獣臭いような作品世界が好きで、ジャック・タチはたちに合わないみたいな印象が残った。ただ、なるほど、こういう世界があるのかという驚きというようなものはいくらかあって、観ておいてよかったなとは思う。どんなことに対して「よかったな」と思える日が来るのかは知らないが。