母、階段から滑り落ちる

母、階段から滑り落ちる。いや、滑り落ちた。そういう連絡を受けた。そういうこともあるだろうと思った。母は自分で車を運転し、外科と脳神経外科に行ったという。結果は全身打撲。おでこにたいそうなたんこぶを作ったらしいが、脳内に問題はなかったようだ。

笑い事ではない。

おれの母は今年で……何歳だろう? おれは……たぶん48歳とか49歳くらいだろうから、母の年齢もそれなりのはずである。一発で死んでしまう可能性もあるし、どこか骨を折るなどして寝たきりになったりするかもしれない。そして介護が必要になるとしたら、だれがやるのか?

おれの生活すらままならないおれには無理だ。おれの弟(無職)がやるのか? やるとしても、日々の糧はどこから得るのだ? 圧倒的に無理だ。

おれはおれ単体でこの世に生まれて来るべきではなかったと思っていたが、おれの一家そろってこの世に生まれて来るべきではなかったのだ。まるっきり間違っていた。男と女があるていどの年齢になったらお見合いでもして結婚して、家庭を作るべきだ、という昭和の常識がまるっきり間違っていたのだ。いやはや。

とはいえ、母が早いかおれが早いかわからないが、わが失敗の一家は禍根を残すこと無く、きれいさっぱりこの世界から消滅する。それでいい。これからの世界は、まともな精神状態と見識、肉体を持った、選ばれた人間たちによって作られていくのだろうし、その世界は今よりずっとすばらしいものになるだろう。おれやおれの一家は廃棄物だが、世の中は捨てたもんじゃない。そうだろう? ちなみにおれの推定年齢はどうも嘘のようだ。