月曜日の朝、おれは起きられなかった。身体が動かなかった。精神疾患がもたらしたものかもしれないし、去りゆく日曜日を惜しんで一人深酒をしたせいかもしれなかった。会社のLINEに「午前中休みます」と入れて、また寝た。
起きたのは昼ごろだった。時刻を調べるためにiPhoneを開いた。そうすると、ちょっとした操作ミスでニュースが目に入った。「ハリルホジッチ解任」とあった。「ええ?」と思った。
おれはサッカーについて、地上波で流れる日本代表戦と、ワールドカップのメキシコ代表にしか興味のない人間である。え、なんでメキシコ代表? それについては今まで何度か触れてきたから詳しくは書かない。まあ、いずれにせよ、サッカーファンからすれば、ミーちゃんでありハーちゃんである。
そんな人間が今の日本代表をどう見ていたかというと、「なんか面白くないな」だった。ぜんぜんサッカーの見方がわからずとも、「それいけ、やれいけ」で、なんとなく日本代表戦は楽しいことが多かった。が、ここのところは、どうにもつまらない。勝ち負け以前に、見ていて眠くなってしまう、そういうことが多かった。にわかのミーハーにはそう思えた。一人のサンプルとしてそうだったよ、と書き留めておく。
ただ、日本代表の顔の一人である長友佑都はこんなことを言っていた。
ガラタサライの躍動感を体現する長友佑都 「ここのサッカーはめちゃくちゃ楽しい」 - スポーツナビ
「ここのサッカーがめちゃくちゃ楽しいからこそ、代表で感じているもののギャップが正直、すごくありますね。今は全然みんな楽しそうじゃない。イキイキしていないことが僕自身、一番歯がゆいし、いいチームにはなっていかないと思うんです。1人が恐怖を持つと、そういう空気はチームに伝染していくものですからね。そうならないように、みんながある程度は自分の本能的な部分でやった方がいい。僕はそう感じます」
新天地のガラタサライで居場所を見つけたらしい長友。長友がこんなことを言っている。たしかに戦術もデュエルもわからぬミーハーが見ていて、彼ら代表が楽しそうというふうにも見えない。また、日本代表なのだから活躍してやろうという覇気も感じない。それはよくないことのように思う。
「楽しみたい」というスポーツ選手の言葉にはいつも賛否があるが、よく知らぬ人間から見ると、「楽しんでるやつのほうが強そう」とは思える。むろん、努力や実力が伴っていないところで楽しそうだったら、君ら学校の休み時間のキックベースじゃないんだから、ということになる。それでも、一国を代表する人間で構成されたチームが「イキイキ」してないのはどうにも歯がゆい。こっちもワクワクできない。そして、今さらハリルホジッチ監督がチームの空気を一変できるような、なんか明るいキャラでもなさそうだというのは感じられていた。
以上が、日本代表の試合(とワールドカップのメキシコ代表戦)しか見ない人間の印象である。ネットを見ているとサッカー通には「この時期の更迭はありえない」という意見が多いようだし、それもそのとおりなのだろうな、と思う。中にはとくに根拠があるわけでもないが、スポンサーが不人気のハリルホジッチ(の率いる日本代表)を解体したかったのだ、という見解もある。なにが正しいかはわからない。
おれのようなものにとっても「遅すぎるのでは」という思いもあるが、ひょっとしたら代表戦がおもしろくなるのでは、という気持ちが強い。「ほら、これが素人を一時的にひきつけるためのスポンサーの狙いだ」とか言われた、「はい、そうかもしれません」というところだ。まあ、サッカーファンにおいては、こういう人間もいるのだな、と思ってくれればそれだけでいい。いてはいけない、と言われた立つ瀬はないが、べつにサッカーファンであることに立つ瀬がなくても、こっちは勝手に見るだけのことだ。もし、ハリルホジッチ続投だとしても、ワールドカップは見るだろうし、本番での逆襲を期待していたかもしれない。ただ、それは永遠になくなったということだ。
と、そんなサッカーの話題をニュースサイトで見ていたら、大谷翔平が投げる方で活躍したというニュースも目に入ってきた。
「メジャーが大谷の洗礼受けてる」大谷翔平選手、3試合連続HRに続き先発しても7回1安打無失点12Kのチートキャラっぷりを見せつける - Togetter
「メジャーが大谷の洗礼を受ける」。洗礼の本来の意味は……とか言わない。なんとなく面白い言い回しだ。いまのところそのくらい活躍しているのだ。いまのところ。おれも「まだ若いしマイナーからやれば」くらいに思っていたのだが、手のひらクルーである。ひょっとしたら長く続かない夢かもしれないし、いずれは投げる方か、打つ方かのどちらかに絞ってしまうかもしれない。でも、今しばらくは夢を見ていたい。そういう思いがある。これからメジャー一流の解析も行われるだろうし、疲れというものも出てきて、成績が下がってくることがあるかもしれない。でも、大谷ならいくらデータ解析されても実際にバッターがバットに当てられない、くらいのことはやってくれそうな、そんな気すらする。
が、そんな大谷狂想曲に乗らないよ、という評論家もいる。江本孟紀である。
大谷2連勝、3戦連発でも二刀流が成功しない理由 江本孟紀「私の成績すら超えられない」〈dot.〉(AERA dot.) - Yahoo!ニュース
そもそも、『二刀流』の成功基準をどこに置くのか。中6日で登板し、その合間にDHで出場することが二刀流なら、基準が低すぎる。
はたして「二刀流」の成功基準ってなんだろうか? あんまりそんなこと試したやついないのに。
中4日が当たり前のメジャーで、中6日で登板していては、規定投球回(メジャーは162イニング)も難しい。打者としても、規定打席(同502打席)に到達できない。大谷が素晴らしい仕事をしても、規定投球回、規定打席に足りてなければ防御率も打率も参考記録です。ましてや、一流選手の証である1シーズン200イニングも無理です。
どうもエモやんは規定打席、規定投球回に達することができないからアカンと言っているようだ。それはそうかもしれんが、それがなんだという話でもある。記録に残らなくても記憶に残ればいいじゃないか。プロスポーツ、ファンが喜んでなんぼなんじゃないのか。どうもそこが江本孟紀とファンとの間にずれがあるようだ。
私たちは、成績はシーズンのトータルで見て評価します。でも、ファンはその一瞬一瞬を喜ぶから、どうしても私たちと選手を評価する時の価値観が違う。それは両者の埋めようのない差なんです。
それでもファンが求めるなら、もうしょうがないんじゃないでしょうか。ここまで来たら、本人が好きなようにやればいいと思っています。
「私たち」というのが元選手を指すのか野球評論家を指すのかわからないが、まあ本人もわかっている。ただ、こういってはなんだが、江本孟紀というと「記録より記憶」の人じゃないですか、と。むろん、本人が「私程度のピッチャーの記録」といっているのだから、そういう思いはあるのだろう。とはいえ、江本の成績だってたいしたものである。尊敬に値するものだ……ったはずだ、と思い「ベンチがアホやから……」の項目が充実しているWikipediaなど見てみる。
すると、通算記録のところに赤い字、トップになる数字があるではないか。通算ボーク記録。
歴代最高記録 ボーク 【通算記録】 | NPB.jp 日本野球機構
NPBの公式サイトで確認してみてもそうだった。これはすごい、というのはべつに揶揄じゃなく、なんというのだろうか、「エモやんらしい記録持ってんなー」である。投げるたびにボークになるような投手は登板させてもらえないのだから、それだけ投げた、ということだ。それだけプロの世界で投げるというのはすごいことだ。投球回5000超えの米田哲也や金田正一といったレジェンドを抑えているのだから。このリスト、唯一現役でランクインしている石川雅紀が「8」で江本が「24」。おそらく抜くのは不可能だろう。石川がここから凄まじい変則フォームに転身しようが、イップスになろうが、あと16個ボークを積み上げるのは難しい。当分安泰の日本記録だ。繰り返して言うが、江本の悪口を言ってるわけではないんです、と。
というわけで、江本には江本の大谷観がある。が、このインタビューで不満なのは、二刀流が「見世物」だと言っておきながら、じゃあ投手と打者どっちに専念すれば見世物じゃなくなくなるんですか? という問いにはっきり答えていないところだ。
おそらく投打にわたる今のフィーバー状態をずっと維持するのは難しいだろう。でも、規定打席、規定投球回に達せなくたって誰が気にするだろう。ひょっとすると、これから日本でもアメリカでも投打に自信を持つ選手が「プロでも両方やれるんだ!」とかなって、「二刀流」が大谷一人のものでもなくなるかもしれないんだぜ。そうなりゃ野球の大転機だ。もし、投打の記録やタイトルに名を残さなくとも、野球というものに名を残す。そりゃあ、すげえことなんじゃねえか、と思う。そのためにも、エモやんも心配するように、故障という不運にはみまわれないでくれ、と願いばかりだ。
と、日記風に書き出しておいて、スポーツの話になってしまった。えーと、午後から会社に出た。なんか寒かった。四月の暖かさをベースにした寒さというより、まだ冬の冷たさがあるような感覚になった。いつも春頃になると心の調子が悪くなるが、まだ冷たいから、この残酷な季節にも耐えることができる。以上。