「最強の平成漫画」というと『闇金ウシジマくん』ということになろう

闇金ウシジマくん (46) (ビッグコミックス)

もしも外国人の知り合いに「ここんところの日本がわかるような映画ってあるかい?」と尋ねられたら、おれは迷うことなく「それは『闇金ウシジマくん』だね」と答えるだろう。おれに外国人の知り合いはいない。

元号で時代を区切るということにどれだけの意味があるかわからないが、西暦だけの連中だって十年区切りくらいのことをするのだろうと思う。そういう意味で、『闇金ウシジマくん』は「平成の漫画」だったと言いたい。最強の平成漫画だと言いたい。

「平成に描かれた最強の漫画」ではない。そういう意味では、『闇金ウシジマくん』よりすばらしい漫画もあるだろうし、たくさん売れた漫画もあるだろう。もちろん、そのレースの中に『闇金ウシジマくん』は入ってくるとは思うが、そういう意味ではない。

「平成を描いた漫画」だと、やはり少し遠い。一歩遠い。むしろ、作者が「平成として書いた漫画」ということだ。漫画が、平成なのだ。このあたりは、ジュール・ルナールが名作『にんじん』を「子供を描いた」のではなく、「子供で描いた」のだ、という評論に近い。

とはいえ、『闇金ウシジマくん』の連載開始は2004年。平成にして16年。半分過ぎている。が、かえってそこがいい。平成の半分で用意されたものが、残りの半分の時代で構成され、あるいは崩れされる、ちょうどいいタイミングだったように思える。「時代の漫画」として、ちょうどよく始まった。そして、平成の終わりに、ちょうどよく終わった。

おれはかねがね、日本の学校教育には金の話が足りない、足りないどころか皆無だと思っていた。人間一人が生きていくにはどれくらいの金がかかるのか。場所によって違うだろうが、家賃は? 食費は? その他光熱費は? これは、各家庭の事情などを考えると、話しにくい話だろう。だからといって、それぞれの子供が大人になって直面するリアルな話だ。

だからおれは、『ナニワ金融道』を教科書として読ませるべきだと思ってきた。今はそれが『闇金ウシジマくん』でもいいと思う。生も性も、なにも、ここに描かれているようなレベルからわからせるべきだ。漫画はわかりやすい。

おれとて、実家消失、夜逃げの一家離散を体験した身である。そのときのおれの立場は引きこもり、ニートであった。それが、洗濯機も買えず、アパートのユニットバスで衣服を手洗いしていたのだ。もっとも、そこまでいくと『闇金ウシジマくん』を読んでいたからといってどうなったわけでもないだろうが。

ウシジマくんは合理的な人間のように見える。ときおり見せる人間臭さというのは、スイカに塩、のようなものであって、塩が本体ではない。経済的合理性、というとちょっと違うかもしれない。金に対するリアル、これがある。

ウシジマくんに関わって、破滅したり、あるいはたまに再生したりする人間もいる。これは金そのものに触れた人間に起こりうることのように思える。マネーのリアル、ここに狂気への道が待っている。とはいえ、人間、少なくとも今の日本では金無しには生きられない。

一方で、ヤクザの究極たる暴力、という側面も描かれる。しかし、側面でいうならば、地縁、血縁かもしれない。冷血、冷徹なウシジマくんでも、最後まで手放せなかった弱み。これである。

あるいは、親の金を使い込む弱者、というものもたびたび登場する。しかしながら、親に使いこめるだけの金があるという設定も、平成の終わった今、どれだけリアリティがあるのかわからない。おれの親は事業に失敗したので、使い込もうにも、借金を頼もうにも、親にカネがない。平成も終わり、そういうシチュエーションはなくなっていくのかもしれない。あるいは、もう金のない人間は子供を作らない。

闇金ウシジマくん』のラスト。これはどう思ったか。ネットでいくらか感想などを調べてみると、賛否両論だのなんだのという具合だ。しかし、おれはそれより先に、あの結末は、結末をぼかしているんじゃあねえかと思った。あんなふうに描いておいて、それはそうだろうと思わせておいて、そうでない可能性も残している。そこはお前が考えろ、勝手に想像しろ、というふうに、そうおれは思った。

言いたいことはまだまだある。あるけれど、ここらへんにしておく。真鍋昌平は、次にどんな話を描くのだろうか。昔、こんな発言をしているのを読んだ。

将来的に目指しているのは、短編なんですよ。ブコウスキーとか、ヘミングウェイとか、レイモンド・カーヴァーとか。アメリカの小説家が書く短編小説が、すごい好きだったんですよね。短編で、完成度の高い漫画をやるっていうのが、今も昔も理想です。

真鍋昌平が描くブコウスキー。少し想像がつく。しかし、真鍋昌平が描く「ささやかだけれど、役にたつこと」、これは不穏だ。いや、そのまま漫画化したいという話じゃないけれど(読んでみたいというのはあるが)。

いずれにせよ、ブコウスキーやカーヴァーの下地があって、なおかつ肉蝮が描けて、思わぬところに笑いを挟み込んでくる。そうとうに飛び抜けた漫画家じゃないか。とりあえず、短編集『アガペー』を読んでみようか。

そして、ウシジマくん、おつかれさん。

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アガペー (ビッグコミックス)

青空のはてのはて 真鍋昌平作品集 (コミッククリエイトコミック)

 

闇金ウシジマくん コミック 1-44巻セット

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