音楽のできかた―『くるりのえいが』を観るのこと

 

 

 

くるりの『くるりのえいが』を観た。映画館に行くのは都合がつかなくて、女の人の部屋で配信を一緒に観た。昼ごはん食べながら見始めて、あれこれ言い合いながら観た。映画館でやると怒られることなので、これはこれで楽しかったと言える。

 

おれはバンドどころか、音楽の演奏というものが大の苦手だ。歌をうたうのも苦手だ。嫌い、といっていいかもしれない。小学校の音楽の授業で落ちこぼれてしまった人間というのはそうなる。たぶん。

 

なので、世の中に流れている音楽がどのように作られているのか、想像すらできない。自分が楽器をいじったりしたことがないから、そのあたりがわからん。

 

わからんが、「ひょっとして、こういう感じなの?」と、思った瞬間がある。

 

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(この記事はほかでもない岸田繁さんにXでほめられたので読んでください)

「このままMCを続けたほうがいい人と、次の曲やってくれという人どっちが多い?」と客席に拍手でアンサーを求めると、ほとんどイーブン。そこで、音楽に乗りながらトークという即興プレイ。これがすこぶる面白い。そこから発展して「存在しない曲」が始まりそうにすらなった。もちろん、ライブでしか聴けない音というものもあるが、こういうのはさらに貴重な現場ならではの体験に思える。おれはMCに拍手した一人だ。

 

「存在しない曲がはじまりそうにすらなった」。これだ。いや、あのときのギターがくるりのお蔵入り曲だったり、だれかの曲だったりする可能性もあるが、なんか本当に、自然に音楽が生まれたかのように見えたのだ。

 

で、『くるりのえいが』はアルバム制作のドキュメンタリーだ。そのあたりが見られるのかもしれないと期待した。そしたら、期待したものが映っていた。三人のメンバーがジャンケンをして、負けた人がなんか弾き始める。それに合わせてほかの二人がなんか合わせる。これがセッションというものなのか。わからん。わからんが、そんなふうにして、だれかのアイディアが肉付けされていって、完成に向かっていく。

 

……というのが、くるり自体にとっても決していつもの普通のやり方じゃない、というのも知っている。というか『くるりのえいが』関連の記事などを読んで知った。今回のアルバムはオリジナル・メンバー三人が揃って、あえて昔と同じやり方でやってみたということだ。今どきは流行っていないかもしれない作り方。でも、これも一つのやり方。おそらくは、あえてくるりが変化していくなかで原点に戻ってみたやり方。

 

そして、なんかアルバムで聴いたな、というメロディになってきて、岸田さんが……なんていうんだあれ、あの歌詞のない状態で、なんか歌うの。ハミング? わかんない。Wikipediaで「歌唱」の項目読んだりしたけどわかんない。まあいいや、仮に声を合わせて……。そんで、「◯◯風でいってみよう」みたいなざっくりな提案で、それでも、意思疎通はばっちりというか、それ風の音(なのだろう)が出てきたりして、形になっていくんだな。

 

それで、あれだな、作詞のシーンもおもしろかったな。曲についてスタッフにどんなイメージかみたいな話をしてて、「海」みたいなワードが出てきて、岸田さんがちょっと湧いてきたみたいなこと言って席を外すの。それで、なんか一人で物置部屋みたいなところにこもって、スマホに打ち込む。曰く、キーボードで打つとタイピングの音とリズムが影響してしまうこともあるとのこと。タイプライターが英米文学に与えた影響はなにか、みたいな話だ。違うか。まあいい。そんなシーンも興味深い。

 

でもって、曲もできて(さっきからおれ「曲」って言ってるけど、メロディと言ったほうが正確だろうか?)、詞もできて、あとは演奏して録音したらおしまいだ。……というわけにはいかない。そこからが大変だ。納得のいくまでリテイクしつづける。メンバーがジャッジすることもあれば、本人からやり直しを求めることもある。「さっき伊豆のスタジオで録ってたじゃん」ってのを、京都のスタジオでやり直したりしている。

 

たとえば岸田さんが「In Your Life」という曲の歌をやっているときも、「いまのはリズムにはめ込みすぎたから、次は歌詞のエモーション(エモーションだったっけな?)全開でやってみる」みたいなことやってて、なるほど、おれにすらわかるくらいぜんぜん違う歌い方だ。でもって、アルバムでどういう具合なものが採用されたのかというと、おれにわかるわけがない。

 

まあとにかく、そうか、アルバムの楽曲というのはこんなに細かく積み重ねてやっているのだな、みたいな。あ、もちろん、バラ録りでなく、一発録りという手法があることも知っています。まあ、今回のこのアルバムは(というかくるりは?)バラ録りで、ガチガチに作り込んでいるんだな、と。

 

……と、書いてみたら、全然『感覚は道標』のイメージと違うな、と思った。「ガチガチに作り込んでいる」という空気じゃないんだよ。くるりのアルバムのなかでも、なんといっていいかわからないが、全体がゆるやかな空気で包まれている作品なんだよ。でも、その後ろには、そういう空気を完成させるために作り込んでるんだな、アーティストってすげえなって思うわな。

 

それにね、映画で見るかぎり、やっぱりなんか楽しそうなんよ。セッションしたあとは、なんか三人で笑うんだよな。なんなんだろうね、ああやって笑うのは。ほんと、バンドやんなきゃわからないもんかもしらん。なにかがあるんだろうな。

 

しかしまあ、三人がそれぞれ指一本ずつでピアノの鍵盤叩いたりたりしてて、なんか変なことも求めているんだろうな、などと思ったり。ちなみに、あとからインタビュー記事読んだら、結局一人で弾いたのが採用されていたとのこと。

 

ま、おれが音楽のことを語っても、語る言葉が少なすぎて、「すげえ」とか「おもしろい」になっちまうからしょうがない。しょうがないので、一緒に見た女の人と話したのはどんなことか書くと、「若い頃のくるりは尖ってて生意気そうだね」(女の人はくるりのメンバーより十歳以上年上なので許してください)とか、「このライブハウスは狭いのにどうやって撮ってるんですかね? あ、固定カメラだ。あと、岸田さんと佐藤さんの立ち位置がいつもと違う」とか、「これは伊豆のどこの海だろう?」とか、「みんなが夕食を食べているのは旅館? スタジオの施設?」とか、「岸田さんが本当に運転している!」とか、「タバコやめたほうがいいよ」(おれの意見ではありません)とか、「そんなに力んで歌ったら、穴という穴から」(こないだのオールナイトニッポンで知った衝撃の事実)とか、まあ、もっとさらにしょうもない話になってしまう。

 

そんなわけで、どんなわけかわからんが、ま、われわれはくるりのファンなのでたいへんおもしろかった。けれど、おれがくるりを聴き始めたのは「ワールズエンド・スーパーノヴァ」がきっかけなので、森さんがいたオリジナル・メンバーの時代をリアルタイムで知らない。その頃からの、「東京」や「ばらの花」からのファンにはさらにおもしろいかもしれない。でも、くるり知らないでも、バンドをやっている人にはおもしろいかもしれないし、車窓のながめが好きな人も楽しめるかもしれない。そのあたりはわからんけど、まあくるり好きだなって人は見てちょうだい。ライブシーンもいいし。しかし、おれは知らなかったけど、森さんって表情豊か(?)に叩くのね。

 

あーあと、このあとは余談というか、まったく余計な話なんだけど、この映画の監督ってNHKのプロデューサーさんなのね。紅白とかにもがっつり関わってる。となると、たまに妄想したり、女の人と話したりする「もしもくるりが紅白に出たら何を歌うか」という話になってしまう。いや、べつにね、さすがにおれも「紅白歌合戦」にとくべつな権威があるとか、出たらすごいとか、そういう価値観はないよ。ただ、でも、やっぱりこの令和でもいちばんたくさんの人が見る歌番組なわけで、そこでどの曲やろか、と。「Tokyo OP」はぜったいにやらないだろうとか。やったらおもしろいけど。まあ、順当なところで、「東京」? 教科書にも載っているし「ばらの花」? NHKつながりで「Remember me」とか。みんなのうたに提供していたのもあったな。でも、おれは「ロックンロール」がいいな、とか。「蟹」とかやったら、どんなバンドかわからんよな、みたいな。まあ、どんなバンドかわからんバンドだけど。

 

あ、本当に余計な話したな。まあいいや、この映画で制作のようすが残された『感覚は道標』、これはなかなかわかりやすく、なおかつスルメなアルバムなので聴いてみてください。

 

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