キャベツを切り終えて、残りを冷蔵庫に突っ込んだら、奥の方から「パキュ」という音が聞こえてきた。パッケージの潰れる音だ。覗いてみると、トマトのパックがあった。おれは即座に思い出した。これは前の前の買い物で買った買い物だ。前の前の買い物のとき冷蔵庫にまだトマトはあったが、目の前のトマトがあまりにも安かったし、このごろよくトマトを食べているので買っておいて損はないだろうと思って買ったのだ。しかし、それをすっかりわすれて前の前の前の買い物で買ったトマトを使い、次に前の買い物で買ったトマトを使い始めてしまった。そこで前の前の買い物で買ったトマトがそのまま冷蔵庫の奥の方にあったということだ。
出してみたトマトはとくに問題なさそうだった。柔らかいどころか、まだまだ硬い。買ってきたばかりのようだ。切ってみる。普通だ。おれも内容が偏っているとはいえ自炊歴二十年、ぜんぜん大丈夫だと思った。が、切って、ヘタをとるとき。一個のトマトのヘタの近くが黒くなっていたのだ。だが、一部が黒いだけで、他の部分は鮮やかな色。黒い部分だけ大きめに切り取って捨てた。
そしておれは鍋を作った。
— 黄金頭 (@goldhead) January 30, 2024
そしておれは鍋を食った。
しばらく経った。おれはぼんやり録画していたアニメを見ていた。異界転生して生まれ変わったレベル99の外科医が即死チートで無双するような話だったと思う。
急に、お腹がごろごろいった。
おれは、お手洗いにいった。
いや、それがもう水なんたらで。
「え? なに?」という具合。
先週の終わりごろからメンタルの方の体調は崩していたが、べつに風邪気味とかいうこともない。なんだろうか。
と、思っていると、またお腹がごろごろいった。
おれはまた、お手洗いにいった。
これももう、水なんたらで。
そこでおれはちょっと考えた。
腐った肉でも食べたのか?
いや、肉はフレッシュだ。
となると野菜しかない。
というかトマトしかない。
黒くなっていたのは一部分で、もう腐ったトマト野郎だったんだ。
火も通したのに?
なんで?
そんなにトマトが腐ると毒になるの?
というか、まず柔らかくなるとか、そういうところからはじめないの?
ちょっと黒い部分があっただけじゃないの。
世の中はやさしくない。
そしておれにはやることがあった。
問題となった前の前の買い物で買ったトマトはすべて使いきらず、残った一個を前の買い物で買った使いかけのトマトのパックに一緒に入れたのだ。
おれは冷蔵庫を開けた。
トマト三つ入ったパックがある。
簡単な判別だろう、と思っていた。
まだ硬いし、見た目の大部分に問題のあったトマトの仲間だ。
新しいものとは判別が簡単だろう。
産地もパックも違ったのだから、大きさとかも微妙に違うはずだ、と。
いや、これがむずかしいのよ。
触っても違いを感じないし、なによりサイズが似たりよったりだ。
ヘタの乾燥具合とか見ても区別がつかない。
それでも「なんとなくこいつが柔らかいような気がする」という一個を選んだ。
おれはそいつを捨てた。
今は正解だったかわからない。
たぶん今夜わかる。
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……これを切らしてしまったので昨夜は普通の鍋でした。