映画『流麻溝十五号 Untold Herstory』公式サイト
日本統治時代が終わり、1949年に中国での共産党との戦いに敗れた蒋介石とともに台湾にやってきた台湾国民政府による、恐怖政治下で戒厳令が敷かれていた時代「白色テロ」。台湾南東岸に位置する面積約16平方キロの自然豊かな島・緑島。第二次大戦後、この島には30年以上もの間、政治犯収容を目的とした教育施設と監獄が置かれていた。思想改造及び再教育を目的とした「新生訓導処」は1951年から1970年まで設置され、収監された人々は名前でなく番号で管理されていた。
- シネマ・ジャック&ベティにて。
- 読み方は「りゅうまこうじゅうごごう」。
- 台湾独裁政権下における、「共産主義」に対する思想改造の収容所の話。
- 台湾というと極東における自由と民主主義の仲間みたいな意識でいたが、自由化されたのもそんなに昔ではなかった。
- 刑務所もの、収容所ものというジャンルがあるかどうかわからないが、そういうものが嫌いではないおれにとってはなかなかに興味深いシチュエーションではあった。
- 思想改造のための収容所というと、共産主義陣営によるそれが思い浮かぶが、逆もある。逆もあって、べつにあわせ鏡でなにも変わらんように見える。
- 主人公は三人の女性。女性収容者が話のメーンとなる。ここでおれがフェミニズムについて知識があれば、そういう視点からなにかを語れることもあるだろう。ないので語らないが。
- いくつもの言語が飛び交う。そのうちの一つは日本語。日本語にも字幕はつく。あとは広東語と北京語と台湾現地語とかになるのだろうか。そのあたりの聞き分けは当然できないが、字幕の約物で区別できたのかな。
- 収容者たちに本格的な共産主義者というのは基本的におらず、ちょっとしたことで放り込まれた。赤狩りの世界だ。そして、いつまで収容が続くのかもわからない。狂気に陥るものも出てくる。
- 蒋介石に対する今の台湾人の評価というのはよくわからない。ただ、この映画は厳しく蒋介石の独裁を指弾している。そして、この映画に対する「反愛国的映画だ!」という批判運動も起きたという。
- 蒋介石は転向者であり、徹底的な反共主義者になったというが、そのあたりの独裁者の意識というものも考えたい。
- 「考えることは罪なのか」というキャッチコピーが使われている。ある政治状況下では考えることが罪になる。
- 刑務所もの、収容所ものでは、だいたいが監視される側が主人公だが、とうぜん監視する者も描かれる。本作においてもそれは同様だ。そこにドラマが生まれる。
- ひとつの大きなストーリーがあるかというと、そういうタイプの映画でもない。ただ、クライマックスはある。
- 愛国者運動のようなものの模範的な例として、男性兵士が服を脱いだら愛国的な入れ墨をしているというシーンがあった。兵士はどこか後ろめたそうで、動揺しているふうでもあった。このシーンはよかった。その後、収容者たちが「台湾で入れ墨を入れているのはやくざものだけだ」と動揺するのもよかった。
- 厳さんは厳しくない人だが(自分には厳しいのかもしれないが)、キリスト教の人でもあった。虐げられる人々にとって聖書は救いになるのかどうか、おれにはわからないが、そういうこともあるだろう。
- 逆さ吊り、トーチカ、虐待、虐殺っぷりはたいしたものであった。
- 刑務所もの、収容所もの好きとして、「これは!」というネタ(歪んだ趣味の人間のいう意味です)はなかったかもしれない。饅頭の価値が高かったのは少し興味深いリアリティであったが。
- 台湾戒厳令下における白色テロ、思想改造収容所の島の話、というのは珍しいだろう。日本で映画で観られる機会も少ないだろうから、なにを求めるかはともかくとして、観ておいて悪くはないように思う。
- あらためていうが、登場人物たちは日本語も使う。その意味と、戦後の極東アジアでおきていたこと。
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台湾で「号」は地名につく漢字だ。「なんか似たようなタイトルの台湾映画観たことあるな」と思っていたが、これだった。話の内容はだいぶ違う。
台湾映画でインパクトが大きかったというか、そんなに台湾映画を観ていないけれど、これはとにかく面白い。大日本帝国軍対台湾山岳民。政治的にどうこうではなく、戦争映画、アクション映画としてかっこいい。いや、もちろん日本人として政治的なことを考えるべきなのだろうが。