実話を元にしているだけあって……『ブリッジ・オブ・スパイ』

 

 スティーブン・スピルバーグが監督で、コーエン兄弟が脚本に参加している……となると、映画館で観るべきだったはずなのだが、すっかり見逃してしまっていた。あまり評判も聞かないし、どんなもんだろうと思って観た。内容についてはあらすじすら知らない、真っ白で観始めた。タイトルから、スパイものだろうと思った。トム・ハンクスもスパイなのだろうと思った。

 

※ここからネタバレ

 

というか、ネタバレもなにも、「事実に基づくフィクション」であって、それは『ファーゴ』どころではない。というのも、劇中、U-2偵察機が出てきて、軍人が諸元などを話し始めたから、どんなもんかと手元のiPhoneでU-2(航空機)をウィキペディアを開いたら、おれにとってはネタバレがバーンと載っていたのだった。だから、アメリカ人なんかにとっては、なんだろうか、大河ドラマというには遠いが、それなりに知ったうえでの話なのかもしれない。

そう、これは、ソ連のスパイをアメリカで弁護することになり、さらにはそのスパイとU-2偵察機パイロットとの捕虜交換の交渉にあたる弁護士=トム・ハンクスの話なのであった。いやはや、たしかに題材としてはおもしろいに違いない。

というわけで、スパイは出てくるが、スパイアクションではなく、法廷ものであり、交渉ものであり、歴史ものであり……なんともいえぬ映画になっている。正直なところ、引きこまれはしたが、すごい山場とかカタルシスとかは期待しちゃいけないかもしれない。もちろん、U-2撃墜シーンなどは迫力あるし、(西側から見た)東側の異様な世界もきっちり描いているように思える。ベルリンの壁なども、破壊されるシーンはいろいろあれど、コンクリートを積んでいって作っている最中の映像というのは珍しい。とはいえ、大傑作というか、そういう力のパワーがあるという感じではない。なんとも歯切れが悪いが、ちょっと評価しにくい。通好みかもしれない。

とはいえ、ソ連側のスパイであるルドルフ・アベル大佐は非常にかっこよかった。映画は彼が鏡を見ながら自画像を描いているところからはじまる。自分という人間、鏡に写った姿、それをカンバスに移す作業。なにやら身分を偽りながら生きるスパイの象徴のようではないか。それでもって、アベルさんかっこいいなあ、よすぎるなあと思っていたら、演じていたマーク・ライランスという俳優がこの役でいろんな賞を獲っていて実に納得したのである。あと、かっこよかったのは、東ドイツの弁護士(を名乗る男)の運転していたカーで、あれはどこのカーだろうか。

ま、そんなところである。史実を元にしているだけあっておもしろい、おもしろくない。あるいは、史実を先に知ってから観るか、知らないで観るか、そういうところもあるだろう。まあなんというか、それなりにおすすめではあるよ、くらいのところで、一つ。

1/48 アメリカ空軍 高高度偵察機 U-2C プラモデル HL421

しかし、U-2には秘密保持のための自爆機能があり、さらにパイロットには青酸カリを塗りつけられた針を仕込んだ硬貨をもたせていた。秘密が露見するくらいなら潔く散華しろというのである。そして、本作でも重要な位置をしめる捕虜になったパイロットについても、アメリカ国民は裏切り者扱いする声が少なくなかったという。はたして、これが我が国の旧軍の特攻作戦や「死して虜囚の……」と根本的に違うのかどうか、おれにはわからない。