ピーちゃんの火葬

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車はカーナビに従って、設定した地点を目指しているはずなのに、どんどん山道は細くなっていく。横浜にこんなに細い道があるのだろうかという具合だ。と、少し開けた火葬場が見えた。ただ、名前が目的地の公営火葬場とは思えない。おしゃれなカタカナがついている。とりあえず駐車場に入り、係員に聴いてみる。

「ここは違いますよ。公営のはね、この道をどんつきまで下って、右折、右折だからね、そこから信号三つ、三つ先ですよ」

どうも間違って迷い込む人間が多いらしい、ちょっとイライラしながら教えてくれる。その通り進むと、公営の火葬場の入口が見えた。さっきの焼き場と同じ山だが、入口が違うようだ。少し登って駐車場に着く。

母が手続きに行き、弟はトイレと喫煙所へと行く。母は火葬場でもおかしくないような黒い服を着ていたが、弟は火葬場に似つかわしくない黒い服を着ていた。フェイクレザーのダボダボのジャケットにダボダボの黒いジーンズ、人を蹴るためにあるような黒いブーツ。ペット葬なのだから、それでいいだろうということだ。そして、館内を歩いていると、たまたま通りがかったそれではよくない、きちんと喪服を着た一段とすれ違う。すれ違いざまに「なんだこいつは」という目で見られ、見られ、見られる。長髪、無精髭、住所不定、職業不詳。今日は母と一緒に猫のピーちゃんの火葬に来ました。

さて、手続きが進むと、今度はべつの窓口に母がお金を払いに行く。その間、弟は職員と、ピーちゃんの亡骸と三人になる。職員が言う。

「よーくお顔を見て、お別れをしてあげてください!」

弟は最期を看取ったのだし、さんざんお別れのために顔を見てきた。もう済ませてきましたから、という気持ちだった。けれど、職員は熱心にお別れの儀式をすすめてくる。じっと目を見て語る。仕方なくじっと動かない猫の顔を見る。そうするほかない空気。おっさん、弟、死んだネコ。いつまでこうしてなきゃいけないんだ。

やがて母が戻ると、また最後のお別れをして、火葬となった。火葬が終わると、人間のそれと同じように、「このお骨は頭の部分で……」というような説明をされた。そのようにしてピーちゃんの火葬は終わった。おれはそのような話を聞いた。