『ぼくんち』(映画版)

 西原理恵子の作品はだいたい好きなのだけど、『ぼくんち』は全体を通した一つの作品としてピタッと来てて好きだな。それが映画化されて、作者がピンサロ嬢役で出演、なんてのは知ってたけど、ようやく観た。
 結論から言うと、ちょっと冗長な感じだった。部分ごと、ピースごとに良い部分はあるのだけど。あと、田舎のしょーもない港町を、力を入れすぎて作り込んである(店や自販機や看板、あるいは葬式の設定)のもどうかと思った。漫画、特にサイバラの漫画みたいに(一見)適当に塗るのは無理にしてもさ。けど、服装が「ケツの割れるような色」だったりしたのはよかったな。
 で、この映画で一番ステキなシーンは、主人公の観月ありさがツタだらけの廃墟の煙突の前で「孔雀の求愛ダンス」を踊るとこ。映像の静寂さと音楽がいい。ただ、前後のお葬式シーンや雨降り心象風景シーンも含めて、映画の流れからちょっと浮いちゃってるのが気になった。監督は「映画にしかできないシーンを入れたかった」というけれど、そういうものなんだろうか。
 そんで、この映画で一番好きなシーンは、志賀勝と二太が死んだふりして川流れするシーン。特典のメイキングを見たら人形に見えたのだけど、解説音声では志賀がウェット・スーツを着るのに苦労した話が出てきたので生身なんだろう。子役もすげぇな。
 あと、この映画で一番存在感があったのは鳳蘭。どこの国の映画だよって感じ。圧倒的。この人いなかったらこの映画の魅力半減と、わたくし的には思う。原作とはまったくキャラが違うわけだけど、この得体の知れ無さはなんとも言えない。あと、母娘関係は映画『愛を乞う人』をちょっと思わせたな。
 全体を思い返すに、どうも全体的に説教臭いという感じも受けた。多少、讃歌的な感じ。原作はもうちょいドライだったような、と思い原作が読みたくなったのだけど、残念ながら手元にない。僕の「ぼくんち」が失われたときに、自分のアパートへ持ってくるのに失敗したのだ。自分が「踏ん張るべきじゃないところで踏ん張っている」のかもしれないな、などと思うと、ちょっと暗くなる。