『ユービック』フィリップ・K・ディック

goldhead2004-09-28

幽霊たちは、話したり書いたりしながら、この新しい環境の中を通りぬけていく。全生命の世界からきた、注意深い、賢明な、肉体のある幽霊たち。

 現実逃避したいときにはSFを読む。できるだけ非日常へキックしてくれるやつだ。その点でこの『ユービック』のキック力は期待以上だった。
 ディックは今までも何冊か読だ。「いい脚があるけれど、使いどころの難しい馬」みたいな印象があって、短編の切れ味が本領かなんて思っていたけど、この作品はちょっと違った。途中で引っ掛かった感じもあるけど、そのまま力で押し切ってしまったような感じ。破綻してるところがディックの魅力、という見方もあるだろうし、これもなんかちょっとという点もありそうだけど。
 この作品世界の謎やディックの宇宙観とか、そういったものを考えて言葉にするのは苦手だ。自分は即物的というかなんというか、作品に没頭できればそれでよし、というタイプで、感想が論考になることはない。そういうのは得意な人に任せておけばいいのだし、自分はそれら「幽霊たち」の言葉に耳を傾けるだけで満足だ。