ドクター・ブラッドマネー―博士の血の贖い― (創元SF文庫)
- 作者: フィリップ・K・ディック,佐藤龍雄
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/01/22
- メディア: 文庫
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「デンジャーフィールドさん、できたらオペラのアリアをかけてほしいんですが。とくに『ラ・ボエーム』の<冷たい手を>ならうれしいです」
いや、俺さ、正直さ、P.K.ディックの面白い長編は全部読んじゃったのかとか、思い上がってたわ。『フロリクス8』とか『アルファ系衛星』とか読んでて、そんな風に思ってたわ。まあ、まだまだあったあった、『ドクター・ブラッドマネー』、核戦争後の変貌した世界を描いた、ちょっと風変わりな名作だわ。
って、やっぱり『ドクター・ストレンジラヴ』、思い出すよね。どんなご関係がおありで? というと、やっぱり版元側の意向で、それっぽいタイトルになったんだってさ。だってまあ、読んでいて「あれ? タイトル?」って感じの乖離はあったからさ。
それはともかく、これはやっぱりちょっと異色作って感じだろうね。俺ね、まず思い浮かべたのが『∀ガンダム』。それで、あとはカート・ヴォネガット。ヴォネガットの作品ですって読まされたら、「衛星から音楽が送られてくるなんて、ディックっぽいヴォネガットだなぁ」とか思ったに違いない。あとはフリークスたちの感じとか、ちょっとセオドア・スタージョンっぽいかとか思ったりした。
でもまあ、ディックはディック。短編とか、『虚空の眼』(id:goldhead:20050503#p3)とかで感じる、結構器用じゃん、みたいな感じがする。それでこれ、SF要素も多いが、なんというか、じっくりと核戦争後のコミュニティを描いたあたり、この、異色の魅力があるっていうところ。この当時、時代背景もあって核をテーマにした作品があふれていたというが、それに真っ向から行ったって感じ。
そうなんだよな、やっぱり核の話だ。アメリカ人にとっての核なんだよな。それに対する恐怖を描いたものといえば『ニュークリア・エイジ』(ティム・オブライエン)なんかを思い出すが、ちょっと日本人のそれともずれのあるそれ。ディックのこれにしたって、何かしら無知や誤解や誇張があったりする(もしもそのせいでこの作品がいまいち広まっていないのならば残念)んだろうけど、それは彼らなりに嘘のない(もちろん、もちろん、SF的誇張、設定は置いておいて)恐怖だったりイメージだったりするのかなとか。それでさ、その戦争後に築かれるコミュニティ像とかさ、そのあたりはどっかしらやっぱりその、ディストピアのようなそうでもないような、なんともいえない……ディックワールド。
ああ、それと最後に小さな、気になったこと。この作品の登場人物名、ストックスティルとかブルートゲルトとか、デンジャーフィールドとか、そのあたりはなんか寓意があるんやろかね。ストレンジラブ調にしただけかね。