『赤い文化住宅の初子』松田洋子

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 昼休みに松田洋子に泣かされそうになるとは思わなかった。松田洋子と言えば何と言っても『薫の秘話』(ASIN:4309264476)で、モーニングに掲載されていた時から大好きで、その後苦労して古本で何とか二冊揃えたくらいであった。で、その後ははっきり言って自分の知る範囲から名前を見なくなり、ふと検索していくつかの著書を知った。そして買ったのがこれである。
 主人公の悲惨な境遇は『薫の秘話』と似たようなものだ。しかし、その描かれ方が違う。『薫』がブラック・ユーモア全開で踏み込んでいったのに対し、こちらは抑制の利いたコントロールで、淡々と不幸と割れビスケットのかけらのような幸せを描く。一見百八十度逆だけれど、根底は人間、そして人生のどうしようもなさ、という点で一緒だ。 しかしまあ、人の家の不幸の形はさまざまというけれど、俺自身の境遇とこの『初子』、そして町工場を描いた『PAINT IT BLUE』にいくらかの共通点もあって、そこらあたりで余計にのめり込む部分が無いとは言えない。しかしこれは、とてもよい漫画だ。
 ついでに言えば、全編通しての広島弁がよかった。俺の家には広島弁ネイティヴ・スピーカーが二人いたけれど、広島弁を聞くのは面白くない状況の時だけだった。しかし、俺はいつか少しばかりの広島弁を喋れるようになりたいと思う。なぜだかはわからないけれど。