『性生活の知恵』謝国権

 古本屋の棚でふと見つけてね、それでパラッとめくってみたら、あの、デッサン用の人形にさまざまの体位させとる写真があってね、そういったものの一つかと思って買ってみたんよ。そのあと調べてみたら、これこそがオリジナル、歴史に名を残す本だったのだから掘り出し物だね。しかしまあ、初版が昭和三十五年で、俺が買ったのは昭和三十七年で「第九十七刷」なのだから、いかに売れたのかということだね。
 著者はれっきとした産婦人科医でね、ちょっと検索してみると、たとえばこの本を「科学・医学にかこつけたエロ本」(http://www.kt.rim.or.jp/~sokohaka/chin-man/jiyu.html)扱いすることもあるようだけれどね、おそらくこれは中身を読んでいないで言ってるんじゃないかと思うね。エロ本じゃあ、戦後の性意識に改革を起こしたとは言われんですよ、ベストセラーにならんですよ。まあ、とにかく生真面目な本なんですよ。体位だってデッサン用の棒人形ですよ、それに男は大文字、女は小文字で整理されとるんですよ。それで、本文はこんな風。

 態位Aa・Ab・Be・Ce・Da・Db・Eb・Fb・Gbは、お互いに性器局部をもつとも密接に接触しうるので、極めて深い性器結合ができるばかりでなく、男性の運動方法も自由で、緩急浅深は思いのままである。

 これが続くんだからたいへんなもんだわね。もちろん、その他知識面についてもケースバイケースの細かさには舌を巻くもんだがね。しかしもちろん、これはこの本の一部にすぎんのだね。本当に著者が述べるのは「愛」、「愛」なんだな。「愛」と「性」の架け橋なんだな。男も女も一緒になって楽しもう、と。そうだね、女性解放的な面もあるかね。まあ、単なるセックス技術書には終わらんのだね。今の日本に欠けとるのは、ここのところじゃないかね。だからね、今も子供の性教育だなんだというけれど、これ一冊あれば事足りるんじゃないかね、セックスばかりでなく、男性女性それぞれの体について、保健体育のようにしっかりと解説しておる。もちろん、時代が時代だけに、前提となるのは夫婦生活なんだから、倫理にうるさい方でも納得じゃないかね。
 でもね、時代が時代だけに、今では変わってしまったような話も混じっとるようだね。小中学生は注意したほうがいいかもしれんね。

 実際は百円のコンドームも三百円のコンドームも、その薄さは全く同一であつて、違うのは透明に見えるような処理が、価格に応じて加えられたにすぎないということである。

 これは今では大違いだね。この当時は薄さ0.35ミリという「極めて薄い膜」で統一されていたようだがね、今じゃもう一桁下がったね。日本の技術の進歩だね、そこまで進歩してちんぽにどこまでいいことがあるのか、わかるようなわからんような気もするがね。

 男性器の亀頭表面を湿潤させる分泌液は、主として前部尿道カウパー氏腺や小さな粘膜腺からの分泌液で、この中に精子は含まれていない。

 これはあかんよね、ガマン汁に精子含まれとるよね。先生はだからコンドームはいく直前にはめればいいとおっしゃるけど、それでえらいことになった話もあるかもしれんよね。……と、思ったが、含まれとるというのも言い過ぎで、確率はかなり低いらしいがね(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%BF%E9%81%93%E7%90%83%E8%85%BA%E6%B6%B2)。
 ……まだまだ、見るべきところは多い本だね、またいつか続きを。