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ダ・ヴィンチという雑誌は名前ばかりでよく知らないけれど、晩年に近い詩人の語りを書き留めたもの。田村隆一は話がめっぽう面白いという話はよく目にしたけれど、なるほどこれも鋭い切り口に洒脱で粋な名語り。『ぼくの人生案内』(id:goldhead:20050502#p2)もすてきな本だったけれど、これもなかなかにすてきな本だったぜ。猫の表紙もたまらんしね。
でも、さきに気になったことを書いておこう。巻末に代表的な詩である「帰途」、それに「立棺」の二編がおさめられているんだけど、なんでこんなに丸っこいフォント使うかね。なんとも雰囲気が台無しだぜ、特にあの、「立棺」がさ。本文と一緒でいいじゃないか、デザイナーもこんなところでよけいな仕事するなよって、俺はそう思うよ。なっ。
しかしそうか、田村隆一はこういうふうに取り上げられもしていたんだな。まあ、これだけかっこいい人はどこ探したってなかなかいるもんじゃないから、当然か。俺にとっての田村隆一というのは、父の本棚にあった古い詩集であって、古本屋で出会ういくつかの本。はっきり言って、同時代的な発言についてピンとこないところがある。
いや、それはこの詩人に限った話じゃないな。俺にとっての本とその著者というのは、古い本棚におさまっている、いつかの時代のいつかの人。すべてが古い世界の話で、俺がそれをずっと後に開くという関係。だから、俺は今現在のいろいろの作家の動向や発言、新刊にまったく興味がないのだ。「近頃の本がつまらない」というのでは決してない。何十年かあとに発見すればいいんだ。
そういえば、田村隆一と同じく、古い本棚の古い本で知った詩人のエピソードが、この本にも出てきていた。
ぼくの借金体験の中でも、余計に貸してくれたのは唯一人だよ。金子光晴だけだな。その日も飲み過ぎて、気がついたら金がない。翌朝に仕事があったから帰宅しなけりゃいけない。そこで、てくてくと金子邸まで歩いていって、玄関をコンコンさ。しばらく待つと、金子光晴ご本人が現れた。「クルマ代、五百円貸してください」と言ったら、黙ったまま八百円くれた……。四十年くらい前の話だけど、死んじゃったから、もう返せないんだよ。