『ジェイルバード』カート・ヴォネガット

 ブックオフの100円文庫本コーナーで発見した。俺はヴォネガットといえども古本でしか買わない。その本に、こんなものがはさまっていた。



 いやはや、どうですか、1983年には三井生命もこんな刺激的な写真で「大樹いきがいワイド」を宣伝していた。セールスレディだろう×山直美さんはどんな気持ちでこれを配ったのだろうか。古本屋は古本にはさまった何かを、積極的に捨てないようにしてもらいたいと思う。

ISBN:9784150106300

「ハートを持たずに生まれてきたのは、あなたのせいじゃないわ。すくなくともあなたは、ハートを持った人たちが信じていたことを、信じようとした――だから、あなたもやっぱりいい人なのよ」

 『ジェイルバード』の話をする。アメリカ移民のはじまり、赤狩り、大戦、ウォーターゲート事件アメリカの現代史。いや、サッコとヴァンセッティの話を知らなくたって、ヴォネガットヴォネガットの言うことを言う。これは解説でも述べられているように『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』(ISBN:9784150104641)と似た主題を扱っている。富その他について。そして、後悔という意味では『デッドアイ・ディック』(id:goldhead:20050824#p2)があったし、追いについては『チャンピオンたちの朝食』(ISBN:9784150108519)の悲痛な叫びを思い出したりもする。俺はヴォネガットを手に入った順に読んでいるのでピンとこないが、キルゴア・トラウト復帰作でもあるみたい。愛は負けても親切は勝つ。

 あらためて思うが、ヴォネガットの描く男女の愛情は胸にくるものがある。あんまりメーンのことではないかもしれないけれども、俺はそう思う。若き日の着飾った滑稽さから、いつまでも話が尽きない交流、別れ、追憶。若くしてくれ、若くしてくれ。
 あと、ウィーン生まれのルース、ヨーロッパでの出会いは、どこかジョン・アーヴィングみたいだなと思った。

 ヴォネガットの訃報を聞いてから読んだはじめてのヴォネガットだった。表紙はなにやら象徴的なように思えた。自分にはまだ何冊か残されているし、何度でも読めばいいのだし。
 
◇関連:サッコとヴァンセッティの話はノン・フィクション。
http://en.wikipedia.org/wiki/Sacco_and_Vanzetti
◇あと、この作品でキルゴア・トラウトの正体とされているのは、朝鮮戦争で唯一の反逆罪を犯した囚人。太平洋戦争の米兵で、白痴に近い兵が一人反逆罪で銃殺になってしまった(普通なら恩赦、減刑があるところ、書類がたまたま通過してしまった)というエピソードがあったと思うが、あれは何の話だったか。ヴォネガットかもしれないし、アーヴィングかもしれないし、それともエンツェンスベルガーだったかな。