帽子が欲しい

 一年か二年前のことだったと思う。俺は横浜駅の階段を登ってたんだ、俺は。下ってきたおっさんがいたんだな。季節は、忘れたな。いかにも定年退職後という風で、なんかアウトドアっぽい格好だった。とりわけかっこいいとか、かっこわるいとか、そういうものはいっさい無くて、どこにでもいるような、カメラで野鳥を撮るのが趣味だとか、それでヨドバシカメラにPLフィルターでも見に行こうかとか、そんな感じのおっさんだったんだな。そのおっさんが、コールマンの帽子をかぶってたんだな。たしか、コールマンのロゴが見えたと思う。それも、ベージュだかカーキ色だかの、いたって普通の、なんてことのないサファリハットだったんだ。それが、なんだか、ああいいな、と思ったんだ。おっさんじゃないよ、帽子がだよ。帽子いいなって。そういう帽子はいいだろうって。この俺の、どどめ色のラコステの帽子より、涼しそうで、日射しも防げて、とってもよさそうじゃないかって。それから一年か二年経って、たまにコールマンの帽子を思い出す。今なら自転車に乗るから、首の下にヒモあった方がいいかな。かっこわるいかな。自転車で遠乗りはしないから、それは考えなくてもいいかな。コールマンじゃなくてもいいな。モンベルとかパタゴニアとか、なんでもいいから、シンプルな帽子が欲しいな。でも、俺の頭の形は特殊らしくて、まず第一に被れるかどうかが問題なんだよな。でも、欲しいな帽子、帽子欲しいな、欲しいな帽子。