しみつたれた、此の國の雪め

 關東平野は昨夜から大雪が降つた。俺は生憎長靴等持つてゐないから、膝までズボンを濡らし乍ら、ひいこら云つて會社まで來たといふ按配。

 そんな中、根岸の山のうへから、米軍の連中が雪中行進して來るのにぶつかつた。雪中の行軍といへば、八甲田山の樣なものを思ひ浮かべるが、ヤンキー共の行軍と來たら、別に女學生の樣にぺいちやらお喋りしてゐる譯ではないのだが、何やらレジャーだとか云ふ、此の頃の若者の流行りみたいな有り樣に見えて、何やら濕りきつた雪すら輕くなつてゐるのかと思つた。

 此の國の雪は、餘りに濕ついて重いのか。彼の國の雪は、サラサラと輕いのか。

 こんちくしやう、此の國の濕つた雪め、ドロドロと重い雪め。

 俺のズボンの濡れた重みめ、濕つた雪め。

 こんちくしやうめ。

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