- 作者: 長田弘
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2009/04/25
- メディア: 単行本
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うつくしいものの話をしよう。
いつからだろう。ふと気がつくと、
うつくしいという言葉を、ためらわず
口にすることを、誰もしなくなった。
そうしてわたしたちの会話は貧しくなった。
うつくしいものをうつくしいと言おう。
「世界はうつくしいと」より
おれは前にどこかで「好きな詩人というものは何人かいるが、詩そのものについて本当に好きだと言えるのは田村隆一だけかもしれない」と書いた。訂正しなくてはいけないかもしれない。長田弘も好きだったのだ。
- 作者: 長田弘
- 出版社/メーカー: 晶文社
- 発売日: 1984/03/20
- メディア: 単行本
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『深呼吸の必要』の話だった。テレビ・ゲームと週刊少年ジャンプその他漫画ににどっぷりはまっていた子供が、詩集など読むだろうか。これが、不思議と読んだのだった。そして、もはやどんな内容だか忘れてしまったのだけれども、恋の詩があって、おれはそれがいたく染みたのだ。あるいは、それは少年の初恋に関する詩だったかもしれないが、自分が投影した追憶と混じりあってしまってのことかもしれない。ともかく、あわい初恋のことがすうっと入ってきて、わがこととしてドキドキし、身悶えし、切なくなったような、そんな気になったものだった。そしておれにとって『深呼吸の必要』は、隠しておきたい秘密の日記、あるいはラブレターのような存在になって、どこかにしまってなくしてしまった。そのあととくに詩を読む人間になることもなかった。
とはいえ、このところおれは図書館というただで本を借りられる場所を見つけたので、吉本隆明の詩集などに手を出したし、もっといろいろの詩を読むのも勝手だということに気づいたのだった。ただ、おれは詩、あるいは現代詩、それより前の詩、いろいろのことについて暗いので、詩の棚にあった入門書のような新書を立ち読みした。
- 作者: 大岡信,谷川俊太郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1985/08
- メディア: 単行本
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決して厚くはない本を開き、文字を追ってみると、やはりすっと入ってきて、ああ、これはいいものだ、と思ったのだった。詩がなんなのかおれにはよくわからないが、おれがいろいろの音楽を聴くのと同じように言葉はうつくしく響き、その上でなにか世界をわからせてくれることもある。
音楽は、無にはじまって、無に終わる。
いま、ここ、という時の充溢だけをのこして。
「モーツァルトを聴きながら」より
たとえば、おれは音楽というものをどう言葉で表現していいか、感想を書いていいかいつも途方に暮れてしまう。ライブですばらしい演奏を聴いても、その体験はいかなるものか、本当にすばらしいのかどうか、わからなくなってしまう。だが、一節を読んでなにか了解ものがあったように思える。これを読んだからといって、急におれは音楽のレビューを書けるようになるわけでもないし、耳から鱗が落ちて音楽の聴き方が変わるというわけでもない。しかし、「音楽は、無にはじまって、無に終わる。」という短い言葉で、おれにはなにかわかったような気がしてしまうのだ。ついでに、石牟礼道子と多田富雄が能だか邦楽だかについて語っていた「間」という無について思いを巡らせたりもする。
表現じゃない。
ことばは認識なんだ。
「こういう人がいた」より
そうなのか。
死の知らせを聞くと、
どうしてか近しく、懐かしく思われる。
そうなのだ。もっとも遠い距離こそが、
人と人とをもっとも近づけるのだ。
いま穏やかな冬の日差しのなかで思い知ること。
「雪の季節が近づくと」より
そうなのか、そうなのか……。
そうかどうか知らないけれども、長く長く紡がれた言葉がわからせてくれるものもあれば、短く鋭くわからせてくれるものもある。わかったかどうかはわからないけれども、そう思う瞬間もある。それは悪い話じゃない。おれはそう思う。そしてやっぱり、気に入った詩集ばかりは借りて読んで返すたぐいのものではないな、と思い知る。
>゜))彡>゜))彡>゜))彡
……音楽については、たとえばこんな混乱。
朝のワイドショーで砂像芸術家が採り上げられてたが、あとに残らない芸術という意味では音楽こそが。そりゃ、CDなりMP3でなんども再生できるけど、ライブは再生できない。おれは不慣れなので、その一瞬を捉えたり、自分の中でうまく消化する術を知らない。ニュートリノに通過されてるみたいだ。楽しい瞬間を過ごしていたはずなのに、なにか受け取っていたはずなのに、気づいたら全部流れ去っていたような気になる。率直なところ。