園児殺しの曲芸自転車


 トンネル。逆光を受けて前方にわりと早いスピードの自転車。ただ、シルエットが妙に大きい。大量の荷物(空き缶など)を積んでいるふうでもなく、ランドナーで長距離ツーリングをしている風でもなく、横に面積がある。
 トンネルを出る。やや近づいて正体がわかった。それが、左に表したすばらしくリアルな絵である。一目瞭然だ。一目瞭然でない人のために説明する必要があるか? 一からか? まあ、ジャイアンエスケープ級のクロスバイクのサドルに幼稚園児か保育園児が座らされている。スポーツマンらしい体格と日焼けをした男……年齢的に祖父か父かは不明、が、右足を左ペダルに乗せて園児を輸送している。そういう状況だ。おれはあっけにとられてしまった。彼らはすぐさま脇道に曲がっていってしまった。
 あかんだろ! ……たぶん。お巡りさんに見つかったら叱られると思う。つーか、それ以前によくもまあそれでバランスが取れるな。というか、どうやって推進力を? さすがに右足で左ペダルを器用に上下させるのはむつかしいだろう。とすると、左足でキックボードを蹴るごとく、か。ゆるい下り坂とはいえ、けっこうな速度は出ていた。少なくとも、歩道ではギリギリアウトくらいの。
 いずれにせよ、あかんだろ。子供はヘルメットをしていなかったし。しかし、どうしてあんな曲芸的な? 想像するに、最初は子供をサドルに乗せて、押して歩いていたのではないか。それがまどろっこしくなってきて、右足をペダルに乗せて蹴るようになった。楽だし早い。慣れてくると、ずいぶん速く走れるようになってきた。じゃあ車道に出て一気にいっちまうか……。そんなところだろうか。それとも、わりと普及している走法なのか。たしかに各家庭いろいろな事情もあるし、クロスバイクチャイルドシートをつけられるかどうかも知らない。でも、やべえだろ。そう思わないの。思わないからやってんのか。いや、知らないが。いや、ほんとどうなっても知らねえよ、って思った。