ヨコハマトリエンナーレ2020に、行った。副題は「AFTERGLOW 光の破片をつかまえる」とある。おれの好きな言葉の一つに「寂光」というものがある。残光のいとこみたいなものだろう。おれは現代美術が描く寂光をつかまえに、横浜美術館などに赴いた。
ところがおれは、残光ではなく、残念とともに家路についた。
いくつかはなかなかいい作品もあった。レボハング・ハンイェ(だれだか知らないが)の作品は、立体も、映像もいい感じだった。
とはいえ、なんかみんな真面目なのよな。大学の社会学部のレポート提出みたいなものが多いのよな。こういうタイトルとかついていて、こんな作品で。
作品はそんなに悪くねえけどな。なんかな、こう、そんなに真面目か? という話だ。社会構造、ジェンダー、差別、歴史、そういったものを取り扱った作品があってもべつにいい。むしろ、ごっちゃ混ぜのフェスならあってしかるべきだ。
でもね、なんかこうね、全体的に真面目なんだよ。ポルノを取り扱ってみても濃厚なジェンダー論が背後にある。むしろ前面にある。あってもいいんだよ。でもね、なんというかね、トリエンナーレのごっちゃ混ぜが、みんなそんな感じで、「これはなんだ?」みたいな揺さぶられるもんが少ない、というか無かったんじゃねえのか。
なんかこう、突き抜けてほしいんだ、現代美術。歴史の審判を経た古典には質と量でかなわない。でも、低い打率のキャッチャーが放つ一発、そういうものがあってもいいんじゃねえかと思うのだ。「なんだかわからんが、やられた」というやつ。
そんなところに(たぶん)律ちゃんがいたとしても、なんか足りねえ。ぶん殴られたという一発が無い。みんなおとなしい。みんな真面目だ。みんなPCに従順だ。そういう作品があってもいい。でも、そうじゃない作品が少なすぎる!
だからもう、なんかおれはどうも、これには納得いかねえって思って、もうちょっとパンチ力を、キック力を見せてくれよって思った。映像作品は眠くなる。作品を観ながら、聴きながら眠くなって眠るのはそれでいいと小澤征爾の弟子である中高の美術教師は言っていたが。
なんか機械が描いていたぜ。
竹村京という人の作品だぜ。
4つのカセットテープを連携させた作品。こんなの作者が来日できなかったら、修理しようもないのではないか。まあ、この新型コロナウイルスのご時世、ちゃんとした準備もできなかっただろうし、来日してのパフォーマンスなんかもできないだろうし、そのあたりは同情するのだが。
でも、どうも、こう、おとなしいんだ。そして、光の破片が見つからねえ。テーマに沿った感じでもねえ。なんかエモい(?)、寂光でしんみりとしているなら、それでもいいんだけれどな。みんな真面目だ。真面目なことは悪くない。社会の問題を考えよう。おれも考えてもいい。でも、そればっかりじゃつまんねえ。少なくとも、美術館で社会問題「だけ」を考えるのはごめんだ。
いくつかはいい感じだった。悪くないともいえる。それでも、なんかお祭り感に乏しく、みんな真面目で、知識も学力も考える力もないおれにはなんか物足りない。文学部美学美術史学科中退のおれにはよくわからない。悪い意味でよくわからない。いい意味でよくわからないものが少ない。学や思想が先行しちゃってんじゃないのか。改めていうが、先行しちゃっててもいい。いいけれど、そういう作品群のなかにあって、自分の父の物語でもない、どこかのドヤの物語でもない、自分の物語を、表出しなくてはどうしようもない自分というものをさらけ出して、わけもわからずぶち込んでくる、そういう作品があってもいいんじゃないのか。おれはおまえの話が聞きたいんだ。社会問題の話も、ジェンダー論の話も、そんな外のことについての話は、べつにアートでなくたっていい。作者自身よくわからないけれど、アートと呼ばれるものの形でしか表現できなかったわけのわからないもの、というものが見たかった。おれは現代美術がわけわからんでそれを学ぶこと、解釈することを放棄した。ただ、それだけに、現代美術はわけのわからないものであってほしい。おれはそう思った。
とはいえ、かつてレストランがあった場所(いつレストランがなくなったのだろう?)のシャウ・シュウ・ジャンの紙動物のアニメーションとか面白かったけどな。でもな、やっぱりな、なんか物足りないんだ。もっと殴ってこい、もっとわけのわからんものをぶつけてこい、おれをわけのわからん気持ちにさせてくれ。日常生活で見られない、わけのわからないものを、おれは現代美術と呼ばれる領域に求める。打率は一割台でもいい。なんか、あっけにとられるもの、笑ってしまってしょうがないもの、そんなものを見たかった。もっとふざけろ、常識をかき乱せ、良識を吹きとばせ、おまえの臓物をさらけ出せ。おれにはそれができないから、おれはそういうものが見たいのだ。
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……自分のブログで2005年まであるとは思いもしなかった。