だいたいが大気でよかった。おれはキリンにまたがって砂漠を行く。空には一千機のバイラクタル。月光騎手たちのあげる砂ぼこり。勇気なんていらない。ただたゆたう。クラゲたちは夜。死んだ人間がそこにいる。生は自分のものにならない。死は自分のものにならない。そのあわいにあって、目前にせまったなにかをやり過ごして歩んでいる気になっている。死んだ人間はファズの効いたベースを奏ではじめた。キャラバンは宴の時間。そこかしこに地雷。踏み抜いたやつは炎に包まれてみなの笑いものになる。天性の地獄的感覚が鋭敏に察する。おまえの心のうちは読まれている。ものを知るにはまずわきまえなくてはならない。わきまえたものをはじめて感じることができる。この国以外の神話はすべて虚妄だと言って、砂の上に突っ伏す。動けなくなった身体は鉛より思い。岩という言葉の「い」は軽く、綿という言葉の「わ」は重い。発音と字義は対応しない。只見線を行く二泊三日の旅。森の中には泣いた半グレたちがいて、それぞれの獲物を待っているがだれもこない。森はただただ深く、実りなく、永遠に死に、永遠に生まれつづける。湖の上を歩く人がいる。その人に話しかけてみよう。「あなたは世の中でいうあの人なのか?」「わたしは単性論を知らない」。鍵を管理するのは異教徒だ。奉神礼の時間が始まる。カクヤスで買ったコノスルを飲む。ワインを飲む単位は一本。余ったからといって料理に使うことは許されない。スーパーで買えるものは、だいたい火を通せば食べられる。そうでない何種類かのものを知るためだけに叡智が必要となる。火を通しただけでは食べられないものの存在に、市民はおののいた。賢者がやってきて、刺身を差し出した。消費期限が切れていた。市民は天を呪い、地を呪った。呪いが成就して、地の底で竜が目覚めた。竜は自分の周りが土だらけでどうしようもないことを悟り、眠りにつき、死んだ。憎悪だけでは愛せない。たくさんの花が咲くように祈ろう。歌い、踊り、ピザを食べる。ピザを食べたらまた歌う。その歌は風にのって、山の向こうのあの人に届くだろうか。山の向こうのあの人は、また今日も人を殺しているのだろうか。昨日も、今日も、明日も殺す。毎朝数千の天使も殺す。バックヤードから出てきた店員はたまたま手にしていたバールのようなもので強盗を殺す。マロニエの花が咲いた。力だけでは変えられない。力士ならば変えられる。安青錦のように常に姿勢を低く保て。精神は常に低く保て。さもなければ風船のように飛んでいく。飛んでいった先で風船は人々に害をなす黒雲になるだろう。黒雲を始末したものに、金貨百枚を授けよう。ひとびとは色めき立った。欲望の駆り出されたひとびとは、いっせいに家から飛び出した。あるものは山を目指した。あるものは森を目指した。あるものは海を目指した。おれは砂漠をえらんだ。見ろ、あのバイラクタルを。おれは間違っていなかった。おれは何日もかけて砂漠をわたった。その先にあったのが世界の始まりのスイッチだった。おれはためらうことなくスイッチを押した。そのようにして宇宙がはじまった。おれは終わり方もわからないものをはじめてしまったことを悔いて、泣きながら家に帰った。途中、コンビニでロックアイスを買った。ペットボトルから焼酎を注いだ。窓の外には一面の雪。春の桜も雪のように解けて消えてしまう。やがて暑い季節が来ると、たくさんの蝉たちが鳴きだした。その音を聴きながら、おれは千年の眠りについた。おれが起きると見たことのない景色が広がっていた。人々は蒸気機関車に乗って、砂漠なんてすぐに横断してしまう。おれは目を閉じて、もう一度キリンの夢を見た。